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2006年10月31日 (火)

将来有望な若手たち

 どの世界でも若手の台頭には目を見張るものがある。ご多分に漏れずF1も,将来有望な若手がどんどん発掘されている。特に今シーズンは,ルーキーの当たり年だったと言えるだろう。GP2を征しウィリアムズからデビュー,開幕戦ではファステストラップを記録したニコ・ロズベルグ。BMWザウバーのサードドライバーからレギュラーに昇格するやいなや抜群の速さを示し,3戦目にして表彰台を獲得したロバート・クビサ。この他にも来シーズンはヘイキ・コバライネンやルイス・ハミルトン,セバスチャン・ベッテルらが,サーキットに新しい風を吹き込むことになるだろう。

 この中で一番の注目株は,マクラーレンからのデビューが噂されるハミルトンであろう。来シーズンマクラーレンに移籍するフェルナンド・アロンソは,「チームメイトは誰であろうが別に問題はない」と平静を装っているが,内心はどうだろうか。ハミルトンには「すぐにでもデビューさせるべき」という論調が強いが,テストドライバーとして経験を積ませ,その間はペドロ・デ・ラ・ロサを起用するという話もある。マクラーレンはドライバーラインナップに冒険することは希であり,他のカテゴリーでどんなに優秀な成績を収めた者でも,即F1デビューさせたことはほとんどない。1993年のマイケル・アンドレッティは,例外中の例外である。それがあったからこそ,余計に慎重なのだろうが。

 さてルーキーといえば,日本期待の山本左近。しかし彼の走りについては,評価の分かれるところである。デビュー当初はマシンに慣れるのに精一杯で,佐藤琢磨とのタイム差も大きかった。また,レースでもミスが目立ち,安定感のない走りも問題であった。それでも終盤戦になると琢磨と遜色のない速さを見せ,レースでも3戦連続完走を果たすなど,いい形でシーズンを締めくくっている。今後の課題は,琢磨となお開きがあるレース中のラップタイムを安定させることだろう。左近の魅力はなんと言っても「ポジティブ・シンキング」であり,多少のミスにも動じない左近には,その将来性を評価する声もある。問題はそのミスを,周囲がどの程度許容してくれるかだろう。

 最後に未来の日本人F1ドライバーたちについて。今最も可能性があるのは,来シーズンGP2デビューが確実な中嶋一貴と平手晃平だろう。既に二人はGP2のテストを経験しており,チーム関係者からの評価も高い。そして彼らにはウィリアムズのテストドライバーという可能性もある。と言うのも,現在ウィリアムズのテストドライバーはナレイン・カーティケヤンだけであり,その契約にはリザーブドライバーは含まれていない。トヨタがここに中嶋か平手を送り込む可能性は強い。トヨタのテストが噂される小林可夢偉も含め,「トヨタ三銃士」の将来も楽しみである。ところでホンダの若手はどうした!?

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2006年10月30日 (月)

次世代フェラーリを担う者

 長い間当たり前のようにあったものが突然なくなると,その事実を受け入れるまでには時間を要する。その時間の長さは人によって様々だろうが,失ったものが大きければ大きいほど,事実を受け入れるまでの時間は長い。ミハエル・シューマッハ現役引退から1週間。彼がF1フィールドにいないという事実を,我々は来シーズンの開幕戦で見ることとなる。シューマッハ引退の事実を実感するのは,きっとその時なのだろう。毎年恒例になっているフェラーリのファン感謝イベントに参加したシューマッハ自身でさえ,「まだ全然引退したなんていう実感はない」と語っている。 

 シューマッハの引退により,フェラーリの体制も大きく変更された。シューマッハと共にベネトン&フェラーリの黄金時代を支えたロス・ブラウン氏は,テクニカル・ディレクターの座を退き,しばらく休養することを宣言している。ブラウン氏は「フェラーリは私のハートそのもののであり,他チームに行くことはない」と,フェラーリに復帰できるのなら他のチームに行くことはないことを明言している。また,エンジン部門の責任者だったパオロ・マルティネッリ氏も後進に道を譲った。そしてチーム監督だったジャン・トッド氏はフェラーリのCEO(最高経営責任者)に就任し,マネージング・ディレクターの職務と兼任することとなった。

 そのトッド氏の「スーパー・アシスタント」に指名されたのが,現役引退したシューマッハである。このポジションはシューマッハのために新設されたものであり,以前噂にあがっていた「アドバイザー」よりも,多岐にわたる役職であると考えられる。そもそもアドバイザーは,スポンサーに対する「親善大使」のようなものであり,チーム運営に直接口を出せるポジションではない。一方アシスタントは,中長期的な視野でフェラーリを運営を考えるポジションである。シューマッハはファクトリーでのデスクワークやテストへの同行などは求められず,自由な立場で動くことができるという。

 フェラーリがシューマッハに期待しているのは,未来のフェラーリドライバーを発掘することである。来シーズンコンビを組むキミ・ライコネンとフェリペ・マッサも,シューマッハは早い段階からその素質を見抜き,トッド氏やブラウン氏に彼らの話をしていたという。ルノーやマクラーレンなど,トップチームが若手育成に力を注ぐ中,フェラーリだけはこの分野に於いて立ち後れていることは明らかである。有能な若手の確保は,チームの将来にかかわる重要な課題でもあるだけに,ドライビングだけでなく若手発掘にもシューマッハの力を借りることにしたのだろう。彼のお眼鏡にかなった若手の中から,次世代のフェラーリを担う者が誕生する。それはシューマッハJrかもしれないが。

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2006年10月27日 (金)

データから見る明と暗

 データは嘘をつかない。そのために見れば見るほど新しい発見があり,勝手な想像を膨らませる側としては非常に面白い。今回発表されたレースデータからは,各チームの明と暗がはっきりと見て取れる。当たり前だがデータは全て「結果」であり,そこには各チームの力関係が示されている。まず総周回数&完走回数だが,今シーズン激しいタイトル争いを演じたルノーとフェラーリが,ここでも1位と2位を分け合っている。当然といえば当然なのだが,高い完走率とクラッシュの少なさは,確実に結果を残した証明と言えよう。3位にBMWザウバーが付けたことも見逃せない。シーズンを通してポイントを獲得するなど,買収1年目は順調なシーズンだったことを物語っている。

 4位のホンダは順当だが,5位にはワークスのトヨタを押さえて,何とトロ・ロッソが付けている。もっともこれにはカラクリがある。知っての通り今シーズントロ・ロッソが使用しているSTR1は,昨シーズンレッドブルが一年間使用したRB1である。そこに回転数を制限したコスワースV10を搭載していたため,もともと高い信頼性を確保していたからである。一方で未勝利に終わったマクラーレンは,総周回数でも9位に終わった。昨シーズンは「最速だが最強ではないマシン」で速さを見せたが,今シーズンは「最速でも最強でもないマシン」で苦戦を強いられた。トラブルに加えアクシデントも多く,序盤のメルセデス・エンジン不調で狂ったリズムは,最後まで戻ることはなかった。

 そして不名誉な最下位となってしまったのは,今シーズン不振を極めたウィリアムズ。周総周回数・完走回数とも,4年前のマシンで苦戦を続けた新興SAF1を下回るという,何とも寂しい果となった。それに加えウィリアムズは,クラッシュによってリタイアした回数も全チームの中で最も多い10回となっている。信頼性の欠如に加え,アクシデントも多ければ「まさかの不振」も「当然の結果」となる。最終戦ブラジルGP1周目で,マーク・ウェバーとニコ・ロズベルグがクラッシュしたことは,今シーズンのウィリアムズを象徴するかのような光景であったと言えるだろう。

 さて,激動の1年を終えたSAF1も,来シーズンのドライバーラインナップを11月中に発表するとしている。F1に適応し始めている山本左近が,引き続き来季もレギュラーシートを獲得できるかに注目が集まる。しかし,左近は時として佐藤琢磨を上回る速さを示すものの,レースを全体を通じた速さがないことも事実である。日本人ドライバーにチャンスを与えるためにも,SAF1には若手を積極的に起用をしてもらいたいが,それも速さと強さがあってのことだろう。ロバート・クビサやセバスチャン・ベッテルのような存在感を示す日本人が,果たしてどれだけいるかだが・・・。

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2006年10月25日 (水)

ライバル達の勢力図

 1年という時間の長さは,その時間をどう生きたかによって,感じる長さも人により様々だろう。毎日をただ安穏と過ごしている者にとっては,日一日が長く感じられるかもしれないが,がむしゃらに突き進んできた者にとっては,あっという間の時間となる。F1サーカスを戦い抜いた者達にとっては,今年もあっという間の1年だったのだろう。最終戦を終えたブラジルでは,各チームがシーズン終了をねぎらうパーティーで盛り上がったという。毎年最終戦後のパーティーは朝までドンチャン騒ぎが繰り広げられるのだが,それだけシーズンにかけるエネルギーが凄まじいということだろう。中でもレッドブルはサッカー場を貸し切り,F1界最大規模のパーティーで労をねぎらった。

 来シーズンに向けた動きも,少しずつ伝わってきている。今シーズンSAF1のライバルであったスパイカーMF1は,登録名称を「スパイカーF1」に変更することを発表した。来シーズンのスパイカーは,フェラーリエンジンの獲得に加え,トヨタを解雇されたマイク・ガスコインが加入するなど,今シーズンを上回る体制を手に入れた。当然戦闘力の向上も期待され,最終戦でSAF1の後塵を拝した雪辱を晴らすべく,精力的な開発を行ってくるだろう。もう一つのライバルであるトロ・ロッソの動きも見逃せない。当初は難色を示していたレッド・ブルからのエンジンの契約移譲をフェラーリが認めたことから,来シーズンの搭載エンジンが確定した。

 気になるのはそれだけではない。レッドブルは,エイドリアン・ニューウェイ指揮の下で制作されるR3を,自チームだけでなくトロ・ロッソでも走らせようと目論んでいる。今シーズントロ・ロッソが使用しているSTR1も,昨シーズンにレッドブルが使用していたRB1のデータを元に制作されたものである。これは独自シャシーを開発しなければならない現在のコンコルド協定に抵触するが,トロ・ロッソは「RB1はF1から撤退したジャガーが制作したものであり,そのデータを流用することはレギュレーション違反にはならない」という,半ば開き直りともとれる強引な解釈でSTR1を走らせてきたのだ。

 同じ手法でSAF1がBAR007(078)を使おうとしたが,これはFIAから強烈なダメ出しを食らった。出場禁止処分を受けたばかりでFIAに睨まれているホンダとしても,トロ・ロッソのような強引な解釈を行うことはできなかったのだ。レッドブルの「RB3シャシー共有」がこのまま黙認されるかどうか,今後の展開に注目が集まる。更にSAF1も,ホンダシャシー共有を諦めていないフシがある。SAF1が提案した「カスタマーシャシー案」は,スパイカーの反対により却下されたが,1度決まったことでも簡単に覆ってしまうのがF1界。大人しい方が損な時もある。シャシーを巡る波乱は,まだまだありそうだ。

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2006年10月24日 (火)

小さな奇跡?いや進化!

 「予想外だ・・・。」最近耳なじみのこの言葉が,ブラジルGPのSAF1にはぴったりと当てはまる。鈴鹿に全勢力をつぎ込み燃え尽きたはずのSAF1にとって,ブラジルGPは単なる「消化試合」だと思われた。事実サーキット入りした佐藤琢磨も「燃え尽きました」と,鈴鹿を振り返っている。プロフェッショナルなF1チームであるからには最終戦も手を抜かず臨むだろうが,それでも鈴鹿以上のモチベーションはないだろう。そう考えていたのだが,予想は完全に外れてしまった。今シーズン最高の走りを披露した琢磨は,トップテン・チェッカーを受ける「結果」を残したのだ。

 予選までのSAF1は,いつもと何ら変わらなかった。金曜フリー走行では,サードドライバーのフランク・モンタニーが8位のタイムを出したが,これは終盤の「アタック合戦」に参加した結果であり,純粋にレースラップの速さを示したものではない。それでも終盤戦になり,SA06Bが速さを増しつつあったことは事実だった。しかし予選ではいつもの定位置に収まり,今シーズンの目標であったQ2進出はついに叶わなかった。SAF1はレースペースを重視したクルマ作りをしてくるため,どうしても一発の速さがない。一方ライバルであるスパイカーは,時折飛び抜けた速さを示すが,これは予選重視のクルマ作りをしているためである。その証拠に,彼らのレースペースはさほど伸びない。

 そして迎えた決勝レース。19番グリッドからスタートした琢磨は,混乱の多い1コーナーを慎重に抜けると,そこから怒濤の走りを見せる。スタートで一度は抜かれたレッドブルのデイビッド・クルサードに3コーナーで襲いかかると,スパイカーのクリスチャン・アルバースもろともまとめてパッシング!レース後の琢磨は,この瞬間を「凄くエキサイティングだった」と振り返っている。レース中盤はトロ・ロッソのスコット・スピードを追い回し,スピードに「SAF1の速さには驚いた」と言わしめた。それはそうだろう。つい数戦前までは余裕で周回遅れにしていたマシンが,何度も襲いかかってきたのだから。

 今回のSAF1快走には,いくつかの要因がある。まず,今回持ち込まれたブリヂストンタイヤのスペックが非常に優れていたこと。もう一つは,インテルラゴスのコースにSA06Bが非常にマッチしていたことである。もちろんマシンのセッティングが決まっていたことは言うまでもない。最高速の伸びは今ひとつだったが,コーナーリング・スピードは,トップチームと遜色のないものだった。2台ともトップテン入りしたファステストタイムも素晴らしいが,その1周だけが速いのではなく,琢磨が自己ベストタイムを連発したことに真の速さがあった。最後の最後で「スパイカー&トロ・ロッソの上に行く」という,大きな目標を達成したSAF1。これは「奇跡」ではない。確実な「進化」なのだ。

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2006年10月23日 (月)

お疲れ様!そしてありがとう

 使い古された言葉だが,レースは筋書きのないドラマであり,人生そのものである。劇的な展開は見る者全てを熱くさせ,人々はその結果に一喜一憂する。2006年最終戦ブラジルGPは,F1の歴史に新たな1ページを刻んだ。数々の苦難を乗り越えながら這い上がるミハエル・シューマッハの走りは,このレースで引退とは思えないほど凄まじいものだった。度重なるトラブルに見舞われながらも,次世代を担うドライバーたちを,1台また1台とオーバーテイクしていく。それはまるで,もう2度と共に戦うことのできない彼らへ,言葉では表せない多くのものを残していくようにも見えた。

 レースにタラレバは禁物である。しかし,予選10番手からのスタートでも,シューマッハの速さは圧倒的だった。従って,仮にジャンカルロ・フィジケラとの接触でタイヤをバーストさせなければ,シューマッハはフェルナンド・アロンソを追い抜き,フェリペ・マッサと共に1-2フィニッシュしていた可能性が高い。そうなれば,シューマッハが最後の目標としていたコンストラクターズ・タイトルも,フェラーリが獲得していただろう。しかし,勝利の女神はそれをよしとしなかった。バーストに加えトラブルを抱えた彼の跳ね馬は,ついにアロンソを捉えることはできなかった。

 しかし,最後尾から怒濤の追い上げを見せたシューマッハの走りは,誰も止めることのできない勢いを持っていた。次世代を担うルーキーを,かつて共に戦ったチームメイトを,そして自らの後継者を追い抜くその様は,皇帝が伝説となるにふさわしい素晴らしいものであった。この戦いの中で,フィジケラはシューマッハのプレッシャーに負けミスを犯し,チャンピオンチームのエースとなるには役不足であることを,自ら露呈してしまった。その一方で,フェラーリを去る者とその後を引き継ぐ者が繰り広げた間隔十数センチのバトルは,シューマッハだけでなくキミ・ライコネンが超一流のドライバーであることを,見ている者に改めて知らしめた。

 この戦いを以て,F1の歴史に一つの幕が降ろされた。2年連続の最年少チャンピオンとなったアロンソは,これからもチャンピオンシップをリードしていくだろう。しかし,それも長く続くとは思えない。彼を脅かす存在が,着実な進化を遂げつつあるのだ。マッサはすでに「勝てるドライバー」に変貌し,ライコネンも「無冠の帝王」から脱却するだろう。そして今後1~2年で,F1は一気に世代交代を終えることになる。2008年からのF1新時代には,今いるドライバーの顔ぶれが大きく変化していても,さして驚くことはない。最後まで「最速の皇帝」であり続けたシューマッハは,またいつの日かF1に戻ってくるだろう。その時を待ちながら今は一言。「お疲れ様!そしてありがとう。」

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2006年10月22日 (日)

皇帝への最終試練

 物事に「絶対」ということがないと同じように,圧倒的に優位に立っている者ですら,瞬時に奈落の底に突き落とされるのがF1の恐ろしいところである。昨日のブラジルGP最終予選は,まさにその「天国から地獄」をまざまざと見せつけられてしまった。しかもそれが,ミハエル・シューマッハの現役最終予選で起きたというのだから,尚のことショッキングである。Q3の開始と同時に,先頭を切ってコースに飛び出したシューマッハであったが,そのペースが一向に上がらない。ヨロヨロと今に止まりそうになりながらピットまでたどり着いたマシンを,メカニックが必死に修復するが,燃料系のトラブルに見舞われた彼の跳ね馬が再び動き出すことはなかった。

 予選Q2までのフェラーリは圧倒的な速さを誇り,他を全く寄せ付けなかった。シューマッハの速さもさることながら,フェリペ・マッサもレコードタイムをたたき出し,一発の速さではシューマッハに引けをとらないことを周囲に示した。一方コンストラクターズ・タイトルを争うルノーは,今ひとつ速さがない。フェルナンド・アロンソが上位に顔を出すものの,Eスペックエンジンを搭載しているはずのジャンカルロ・フィジケラは,フェラーリに大きく水を開けられた。ブリヂストンタイヤを履くトヨタが好調なことからも,フェラーリのフロント・ロウ獲得は,間違いないものと思われた。

 しかし,現実は違ったのだ。フェラーリにとって不幸中の幸いは,シューマッハのトラブルが「Q3」で出たことだろう。仮にこのトラブルが「Q1」で起きていたら,ドライバーズ・タイトルはおろか,コンストラクターズ・タイトルすら絶望的になったであろう。もちろんこのトラブルで,シューマッハの逆転タイトル獲得の望みは,完全にたたれたと言っていい。シューマッハ自身はとうにドライバーズ・タイトルを諦めていただろうから,今はルノーの前に出ることだけを考えているはずである。しかし,フェラーリがルノーを逆転するためには,1-2フィニッシュする事が求められるのだ。

 PPからスタートするマッサは,母国ブラジルGPで最高の走りをしており,このままポール・トゥ・ウィンをする可能性は十分ある。あとはシューマッハが怒濤の追い上げで前をいくルノー勢を追い抜き,2番手まで上がるだけである。勝利の女神は,皇帝の引退レースを,どのような結末にしようと考えているのだろうか。フェラーリが圧倒的な速さでルノーを置いてきぼりしては盛り上がらないから,シューマッハのマシンにちょっとしたトラブルを用意したというのか。今まで幾多の逆境を乗り越えてきた皇帝に,「最後の試練」が課せられたのだ。もしシューマッハがこの試練に打ち勝つことができたら,彼は名実共に「伝説のチャンピオン」となるだろう。

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2006年10月20日 (金)

下克上がまた始まる

 高いレベルで争っている世界では,ほんの少しのアドバンテージが大きな差を生むことになる。F1は厳格なレギュレーションで縛られているが,各チームはそのレギュレーションの隙間をついて様々な試みをし,ライバル達にアドバンテージを得ようとしている。昨日2007年シーズンF1レギュレーションの詳細が発表された。その中で特に注目されるのが,金曜フリー走行でサードドライバーの走行が許可されたことである。コスト削減の見地からサードカーの使用は禁止されたが,レギュラードライバーのマシンを使ってサードドライバーを走らせることが認められたのだ。

 各チームがこのレギュレーション改定をどう利用するか興味深い。現在サードドライバーの走行が許可されているのは,前年シーズンのコンストラクターズ・ランキングが5位以下のチームに限定されている。これは下位チームの救済および,スポンサーの露出効果拡大を狙ったものだった。しかし,今回の改定で上位チームでもサードドライバーを走らせることが可能になった。来季はサードカーが廃止されるため,チーム間の走行距離による差はなくなることになる。下位チームは若手ドライバーを試すこともあるだろうが,その走行時間は現在よりも限定されてたものとなる。上位チームはマシンをシェアしてまで,積極的にサードドライバーを走らせることはないだろう。

 今回のレギュレーション変更を誰よりも喜んでいるのは,各チームのサードドライバーや,F1を目指す若手たちであろう。グランプリウィークの走行は,テスト走行と比べF1関係者の注目度も高く,そこから昇格のチャンスを得ることができる。今シーズン途中でレギュラー昇格を果たしたBMWザウバーのロバート・クビサは,サードドライバーの典型的な成功例である。サードドライバーはエンジンをいたわる必要がなかったため「速くて当然」だったが,来季はエンジンおよびタイヤの制限が緩和されるため,レギュラードライバーたちも周回数を重ねることができる。その中で走るとなれば,ドライバーの腕が如実に表れることになるだろう。

 もっとも各チームは,レギュラードライバーを差し置いてサードドライバーに多くの走行時間を与えることはしないだろうから,彼らの状況はレギュラーより厳しい。しかし限られた時間の中でレギュラーを喰う者が現れれば,第2のクビサが誕生することになる。F1は下克上の戦国乱世。ルノーのテストドライバーとなったネルソン・ピケJrも,チームのエースジャンカルロ・フィジケラの後釜を虎視眈々と狙っている。まずは同じ道具を使うチームメイトに勝たなければ,そこから先の道は開けない。元ワールドチャンピオンとて,エースとして活躍しているドライバーとて,一寸先は闇なのである。  

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2006年10月19日 (木)

更なる飛躍を目指して

 チームを移籍することには,常にリクスがつきまとう。上り調子のチームに移籍できればさらなる飛躍が望めるが,行った先で思わぬ落とし穴が待っていることも少なくない。マーク・ウェバーの場合,移籍するタイミングはさほど間違っていなかったはずだ。2004年ののウィリアムズはそこそこの成績を収めていたし,当時所属していたジャガーが買収され翌シーズンの動向が不明瞭だったことも,ウェバーの決断を後押ししていたのだろう。ワークスエンジンを持つ名門チームへの移籍は,誰の目からも「出世街道まっしぐら」に見えた。しかし,彼のマネージャーでもあるフラビオ・ブリアトーレ/ルノー代表は,ウェバーにこの移籍を勧めなかったという。

 ブリアトーレは,ウィリアムズの凋落を予想していたのだろうか。ウィリアムズがよもやこれほどの不振に陥るなど,凡人であれば思いもしないことである。しかしBMWエンジンを失ったウィリアムズは,今シーズンを8位というここ20年で最低の成績で終えようとしている。不振の原因を,何度もトラブルを起こしたコスワースに押しつけるのは簡単である。しかし今シーズンのFW28は,ライバルと比べ空力的にも明らかに劣っていた。そのためチームは,これ以上どこに追加するのだというぼど,毎戦のように空力付加物を追加してきた。時折速さを見せるものの,安定した結果を残せなかった原因は,ウィリアムズのエンジニアリングレベル低下も大きく関与している。

 それとは対照的に,ウェバーが移籍するレッドブルは,来シーズンを飛躍の年にしようと意気込んでいる。今シーズンはじめにマクラーレンから獲得した天才デザイナー,エイドリアン・ニューウェイ/チーフ・テクニカル・オフィサーの手による「RB3」が登場するのだ。このマシンをウェバーと共に駆るのは,ミハエル・シューマッハなきあと現役最年長ライバーとなるデイビッド・クルサード。彼にとっても来季は進退をかけたシーズンとなる。ウェバーに差をつけられるようであれば,クルサードのF1生活は終わることになる。もっともイギリスには,ルイス・ハミルトンという超新星が誕生しそうだが。

 最後に,正式にトヨタとテストドライバー契約を結んだフランク・モンタニーについて。SAF1の創生期を支えた男が,さらなる飛躍を目指して移籍を決めた。SAF1での確実な仕事ぶりが,トヨタのお眼鏡にかなったと言っていいだろう。しかし,これが即飛躍に繋がるかというと,それはまた別の話である。モンタニーは熟練したテストドライバーであるが故に,リカルド・ゾンタと同じ運命をたどってしまう危険性がある。来シーズンはサードカーを走らせることもないので,テストドライバーは己の速さをアピールする場面が限られる。今はF1流浪人,「いぶし銀」モンタニーの飛躍を願ってやまない。

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2006年10月18日 (水)

絶対皇帝の院政?

 どのような職業であれ,引退した後の人生はひとそれぞれである。長年働き続けてきたことで心身共に疲れ切っているだろうから,ゆったりとした第2の人生を歩みたいと思うのも当然である。F1ドライバーとてそれは同じこと。引退後は実に様々な道を進んでいる。テレビ解説者になる者。チームに残りテストドライバーを務める者。ほかのカテゴリーに新境地を見いだす者・・・。フェラーリの皇帝ミハエル・シューマッハが,まもなく16年のF1生活にピリオドを打つ。しかし,彼の周囲にはまだまだ話題が多い。タイトル争いの決着は未だついていないが,すでに来年の話があちこちから聞こえてくる。

 以前から来季シューマッハがどのような道に進むのかは,様々な憶測が流れていた。引き続きチームに残留して,専属テストドライバーを務めるとか,アウディと組んで「チーム・シューマッハ」を立ち上げるだとか,しばらく休養した後,息子のマネージャーとなりサーキットの帝王学を学ばせるだとか・・・。ここまでくると何でもありだが,これだけ引退後の身の振り方が注目される人物も少ないだろう。そしてここにきて飛び出したのが,来年度もチームに残りアドバイザーを務めるというもの。フェラーリは現在ニキ・ラウダ氏がアドバイザーを務めているが,その後釜として現役引退直前のシューマッハに白羽の矢が立った。

 シューマッハの引退は,フェラーリにとっても大きな打撃となる。そのために「無冠の帝王」キミ・ライコネンを獲得したのだが,それはマシンを操るという面だけである。シューマッハの影響力は,いちドライバーとしての領域を遙かに超えている。言うまでもなく彼は,長年フェラーリの絶対皇帝であり,スタッフは彼のカリスマ性に惹かれ,昼夜を問わないハードワークをしてきたのである。しかし,絶対的な影響力を持つ者がいなくなれば,組織のバランスは著しく崩れる。一人の人間に頼っている組織ほど,その度合いは大きい。もちろんフェラーリはF1随一のプロフェッショナルな集団ではあるが,少なからず影響が出るのは避けられないことだろう。

 もっとも,今回のシューマッハアドバイザー説は,組織の急激な変化を嫌ったスポンサーサイドが強く望んだこととされている。それほど「フェラーリ=シューマッハ」のイメージは強く,スポンサーとしてはどのような形でもシューマッハに残留してもらいたいのであろう。これはフェラーリにとっても悪い話ではない。ライコネンも「シューマッハのアドバイスは聞きたい」と話していたし,シューマッハ自身もフェラーリの一員としてF1界に影響力を残せる。とは言え一度引退した皇帝の「院政」は,現役にとって面白い話ではないだろう。はたして当の本人は何を思うのやら・・・。 

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2006年10月17日 (火)

極楽鳥たちの衣替え

 極楽鳥という鳥がいる。パプアニューギニアなどに生息するその鳥は,信じられないほど美しい体毛を持ち,自らの存在を周囲にアピールしている。F1マシンも時折極楽鳥に例えられる。その色鮮やかなカラーリングで周囲の注目を集めるのも,極楽鳥と同じである。来シーズンはタバコ広告の全面禁止に伴い,長年F1の台所を支えていたタバコマネーがほぼ撤退するため,見慣れた極楽鳥たちのカラーリングは大きく様変わりする。F1マシンのデザインやメカニカルな面は大きな魅力だが,何よりそのカラーリングは,毎年見る者を楽しませてくれる。

 ルノーは,オランダの金融グループである「INGグループ」との提携を発表した。1995年からマイルドセブン・ブルーに彩られていたルノーは,来シーズン大きくイメージを変えることになるだろう。INGグループのコーポレートカラーはオレンジだが,契約金額が3年間で総額1億5千万ドル(約178億5千万円!)と巨額なことから,全面リニューアルのカラーリングが予想される。B.A.R~ホンダと慣れ親しんだラッキーストライクカラーも,中国GP限定の「555ブルー」と共に今シーズン限りで見納めである。最終戦のマシンには,ハートマーク上に「RACING FOREVER」と描かれている。タバコマネーというひとつの時代が終わっても,F1は形を変え走り続けていくのだ。

 マクラーレンも,来シーズンはそのイメージを一新する。現在フェラーリを支援しているボーダフォンがタイトルスポンサーとなるため,大幅なカラーリング変更がなされるはずである。ボーダフォン・レッドになるのか,それともシルバーとレッドが共存するスタイルになるのか,興味は尽きない。数々のスポンサーを獲得するチームは,その分カラーリングが雑多になる。かつてSAF1の鈴木亜久里代表が所属したラルースは,様々な小口スポンサーのニーズにも応えるため,最初からチームカラーを赤・緑・黄・紺などの組み合わせにしてあった。そのためラルースのマシンは,他チームに比べ一段と色鮮やかな,まさに「極楽鳥」だったのだ。

 しかし,ミハエル・シューマッハのF1デビューマシンとしても知られているジョーダン191は,「奇跡のカラーリング」を実現していた。タイトルスポンサーの「7up」,潤滑油メーカーの「BP」,更にシーズン途中に獲得した「富士フイルム」と,狙ったかのようにグリーンのコーポレートカラーを持つ企業からスポンサーを得ていたのだ。とはいえこれは1年限りで,翌年のジョーダンは,「SASOL」の鮮やかなブルーを纏っていたが。金の切れ目が縁の切れ目。年明けには衣替えを終えた極楽鳥たちが,サーキットに羽ばたきだすだろう。

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2006年10月16日 (月)

ワークス最下位はどっちだ!?

 1980年代終わりから1990年代初頭は,4強と呼ばれたフェラーリ,マクラーレン,ウィリアムズ,ベネトン(現ルノー)が優勝争いを演じていた。これらのチームはワークスエンジンの供給を受け,毎年コンストラクタースランキングの上位を独占していた。それ以外のチームは4強の下,つまり5位が現実的な目標となった。5位の座は非ワークスチームのトップに立つことを意味していたのだ。しかし自動車メーカーが自チームを運営する現代では,同じ5位でも大きく意味合いが違う。BMWザウバーとトヨタが5位争いを演じているが,これに負けたチームは「ワークス最下位」ということになる。

 ザウバーを買収してワークス体制を敷いたBMWは,非常にうまく機能している。ザウバー時代よりもスタッフの人数は増えたが,それとてトヨタほど多くはない。シャシーとエンジンのバランスもよく,積極的な開発はシーズンを通して続けられた。どのタイプのコースでも安定した速さを発揮していることからも,F1.06の素性の良さが伺える。更に,ロバート・クビサのレギュラートライバー昇格以降,チームは完全な上昇気流に乗った。ポイントは獲得するものの,今ひとつパッとしなかったニック・ハイドフェルドも,いよいよ尻に火がついてきたのか,シーズン後半の方がいい走りをしている。

 一方のトヨタは浮き沈みが激しい。シーズン序盤はオーストラリアGPでラルフ・シューマッハが3位表彰台を獲得したものの,今シーズンから採用したブリヂストンタイヤとのマッチングに苦しみ,思うような成績が残せなかった。しかし,モナコGPでTF106Bを投入してからは徐々に速さと信頼性を増し,ヤルノ・トゥルーリがポイントを獲得する機会も増えた。2人のドライバーが安定した成績を残せるようになったことで,BMWザウバーを押さえての上位進出が期待されたが,トヨタはまたも失速してしまう。終盤戦にも毎戦アップデートした空力パッケージを持ち込むなど,可能な限りの開発を続けていたのだが,それが結果として表れないという最も苦しい状態に陥っている。

 世界最高峰のF1でコストパフォーマンスを考えるのはおかしな話なのかもしれないが,どのチームも資金が無尽蔵にあるわけではない。したがって,限りある資金をどう効果的に使うかは重要事項である。例えば,F1につぎ込んだ資金を獲得ポイントで割ってみると,コストパフォーマンスに優れたチームであるか否かが一目瞭然になる。その考えでBMWザウバーとトヨタを比較してしまうと,どう考えてもBMWザウバーに軍配が上がる。マリオ・タイセン/ディレクターも「我々は満足すべき進化を遂げた」と,1年目のチームを賞賛している。しかし5位争いで満足しているようでは,初優勝は遠のくばかりである。どちらももっと上位を目指さなければならないチームなのだから。

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2006年10月15日 (日)

狐と狸の化かし合い

 子どもにおもちゃをねだられ買い与えても,すぐにガラクタにしてしまう。せっかく手に入れた物でも,飽きてしまえばあとは用無しでなのだろう。しかしこれがF1参戦権となると,ずいぶん話は変わってくる。2008年からのF1参戦権を勝ち取ったプロドライブが,その権利を売却するのではないかという噂が立っている。プロドライブといえば,前B.A.R代表のデイビッド・リチャーズ氏が率いるレース屋で,かつてはF1だけでなくBTCCやWRCでタイトルを獲得するなど,幅広くレース活動を展開してきた。そのリチャーズ氏が再びF1界に戻ってくるためには,思いの外多くの障害が待ち受けていた。

 今シーズンはじめに行われた2008年からのF1参戦エントリーには,22チームもの申し入れがあった。既存11チーム以外には,昨年度までミナルディの代表を務めていた,ポール・ストッダート氏や,元ジョーダンのオーナーであったエディー・ジョーダン氏,元フェラーリドライバーのエディー・アーバイン氏など,F1に関わりの深い人物から,ART,ディレクシブなどのGP2チーム,そして,ロシアやアラブの大富豪まで,実にバラエティーに富んだ顔ぶれが並んだ。しかし,最終的に参戦権を獲得したのは,プロドライブだった。FIAとしても,過去に実績のあるプロドライブであれば,継続参戦の問題はないと考えたのだ。

 参戦権を獲得したプロドライブは,イギリスのウォリックシャー州にファクトリー建設の準備を進める一方で,カスタマーシャシーとエンジンの確保を進めていた。当初はシャシーを自社開発する意向でいたが,その後マクラーレン製シャシーとメルセデスエンジンを使用できるよう,マクラーレンとの交渉を続けていた。しかし,プロドライブ側が最新スペックのシャシー&エンジンをマクラーレンに求めたのに対し,マクラーレン側は,プロドライブに完全なるサテライトチームになることを求めたと伝えられた。この思惑の違いが,今回の参戦権売却話へと発展したのだろう。

 とは言えこの話,リチャーズ氏が交渉を有利に進めるための「ネタ」である可能性が強い。そもそもF1参戦権が,そう簡単に売却されることなどあるのだろうか?いくら資金をつぎ込んででも獲得したい者はいるだろうが,それをFIAが許すわけがない。参戦に当たっては,企業の規模や資金,過去の実績からチームの技術力まで数々の審査があっただろうし,右から左へと譲渡できるものではないだろう。子どものおもちゃとは訳が違うのだ。ホンダがSAF1と,トヨタがウィリアムズと,さらにはフェラーリがスパイカーとの連携を強める中で,ロン・デニス代表としてもサテライトチームは喉から手が出るほどほしいだろう。さてさて,リチャーズ狐とデニス狸の化かし合いが見物である。

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2006年10月13日 (金)

もう1つのタイトル争い

 「終わりよければすべてよし」毎年最終戦には,幾つもの思惑が交錯する。1週間後に迫ったミハエル・シューマッハのラストランに向け,フェラーリも最後のテストに余念がない。へレスで行われている今シーズン最後の合同テストでは,連日シューマッハがトップタイムをたたき出している。他を1秒以上も引き離すそのパフォーマンスから,ライバルチームからは「パワー重視型のスペシャル・エンジンを使用しているのでは」という噂まで立っている。逆にルノーはフェルナンド・アロンソに,超信頼性重視のエンジン投入すると明言しており,両者の最終戦にかける意気込みが伝わってくる。

 ルノー陣営は,最終戦でシューマッハが「闇の力」を使わないよう牽制している。タイトル獲得のためには手段を選ばなかったシューマッハは,過去にいくつもの「前科」を持っている。かつてタイトルを争ったデイモン・ヒルやジャック・ビルニューブは,こうした闇の力の犠牲者であるだけに,シューマッハに対するコメントが辛口なのも当然であろう。一方でニキ・ラウダ氏は,「フェラーリがズルをすることはない」と,かつての所属チームを擁護している。両タイトルがかかったレースで,少しでも疑わしい行為をすれば,それは即ペナルティに繋がる。ポイント剥奪などの厳しいものになれば,今までの努力はすべて水の泡となってしまう。

 すでにシューマッハは,ドライバーズ・タイトルに「終戦宣言」を行っている。もちろん可能性はゼロではない。仮にシューマッハが首位の時点で,フェリペ・マッサにアロンソを撃墜させれば,ドライバーズ・タイトルは計算上シューマッハのものとなる。しかしそんな「カミカゼ攻撃」を行えばペナルティ確実であり,フェラーリが危険な橋を渡るとは思えない。しかも,ジャンカルロ・フィジケラが7位以上でチェッカーを受ければ,コンストラクターズ・タイトルはルノーのものになってしまう。シューマッハの逆転王座獲得を目標としていては,もう1つのタイトルをも逃しかねないのだ。

 シューマッハ自身も鈴鹿でリタイアを喫した時点で,最終目標を修正したはずである。最終戦で愚かな行為をしてしまえば,自身のキャリアに傷を付けることになる。シューマッハも「フェラーリはベストチームなだけに,タイトルを獲得に十分値する。我々以上の連帯感のあるチームはないし,あとはチャンピオンになるだけ」と,最終戦にかける意気込みを語っている。アロンソは警戒を強めているが,メディアが騒ぎ立てているようなダーティーな結末は誰も望んでいないだろう。ただひとつ気になる点があるとすれば,そのコメントの結びであろう。「少なくとも1つのタイトルは獲得したい」・・・まさかそのタイトル,ドライバーズ・タイトルではないよなぁ。  

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2006年10月12日 (木)

SAF1に求められるリザルト

 一つの壁を乗り越えると,達成感と同時に虚脱感が襲ってくる。その壁が高ければ高いほど,乗り越えた後の虚脱感は大きい。次の目標をすぐ見つけられればよいが,人間なかなか気持ちの切り替えは難しい。他のチームにとって鈴鹿は18分の1でしかないが,鈴鹿に99%の力を注いでいたSAF1にとって,最終戦ブラジルGPは消化試合の意味合いが強い。もちろんチームの誰もが否定するだろうが,今シーズン最大の力を注いでしまった後で,また同じような力が出せるとは思えない。鈴鹿に向けて可能な限りの開発が続けられてきたSA06Bも,最終戦にはアップデートなく持ち込まれることになるだろう。

 そんなSAF1は,すでに来季を見据えた動きを始めている。鈴木亜久里代表は,「来季はホンダとの連携をさらに強めていく」と語っている。具体的に何を示すのかは不明だが,おそらく技術面の支援増強を指していると思われる。SAF1はホンダの強力なバックアップの下誕生したチームであることは言うまでもない。しかし,当初予定していた旧B.A.Rシャシーを使用できなかったことから,ホンダのSAF1に対するバックアップは不十分という批判を受けた。以前「新型エンジンの実力は?」で書いたように,SA06の開発に当たっても,HRDより栃木研究所の協力が大きかったと伝えられている。

 シーズン終盤まで積極的な開発を行ったSA06Bをもってしても,スパイカーやトロ・ロッソなどの前でフィニッシュすることは容易なことではなかった。予選順位も期待していたほど上がらず,今シーズンのQ2進出&ポイント獲得は絶望的と言っていい。大幅なリニューアルがされたとはいえ,基本となる設計思想が5年も前のマシンでは,これ以上の成績を望むほうが酷である。この状況を打開するためには,新車SA07をホンダの協力の下で製作することである。SAF1は非常に小規模なチームであり,チーム内でできることは限られている。従ってホンダからの技術支援増強は,チームがさらなる飛躍を遂げるために必要不可欠のものである。 

 SAF1の最終形態はホンダのサテライトチームになることである。これは亜久里代表やHRDの和田社長も語っていることであり,SAF1にとってホンダは単なるエンジンサプライヤーではない。2008年からはホンダ製シャシー(RA108?)を使うことは決定事項であろうし,資金的にも安定することになるだろう。そう考えるともっとも厳しいのは来シーズンである。ホンダからの資金援助は続くだろうが,サテライトチームがいつまでも最下位争いをしているようでは,ホンダの面子にもかかわる。アンソニー・デビッドソンを送り込むからには,ホンダもSAF1にそれなりのリザルトを求めるだろう。F1は弱肉強食の世界。同胞チームとはいえ,ただより高いものはない。

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2006年10月11日 (水)

鈴鹿サーキット「平家」物語

 「奢れる者も久しからず ただ春の夢の如し」平家物語にもあるように,隆盛を極めたものでも,いつかは消える運命にある。この世に永久というものがないように,F1の世界においても永久は保証されていない。今シーズンを最後に,鈴鹿サーキットでの日本GPが消滅する。模索してきた春開催は,文字通り「春の夢」となってしまった。20年連続開催という長い歴史は,本場ヨーロッパでも数例しかない。モータースポーツ後進国の日本で,これだけ長い期間の開催ができたのは,鈴鹿を愛する熱心なファンや,F1サーカスを温かく迎え入れる地元住民の存在があったからに他ならない。

 1962年オープンの鈴鹿は,40年以上経過してなお,世界屈指のサーキットとして名を馳せている。ドライバーの闘争心をくすぐるチャレンジングなコースレイアウトは幾多の名勝負を生み出し,鈴鹿を「もっとも偉大なドライバーズコース」とたたえる者も多い。そこに詰め掛けるファンは,ドライバーたちを尊敬の念を持って迎え,スタッフと地域住民とのコミュニケーションも活発に行われていた。ヨーロッパから遠く離れた異国の地でのグランプリは,ドライバーやスタッフの一体感を高める。毎年シーズン終盤戦に組み込まれてきた鈴鹿では,レース後のパーティーも盛大に行われ,ミハエル・シューマッハの「ご乱交」など,話題には事欠かなかった。

 しかし,いくらそこに集う人が熱狂的でも,ハード面の老朽化だけは避けようがない。鈴鹿はオープン以来,コースやスタンドの改修などを何度かのリニューアルはしていたものの,抜本的な改修工事を行うことはなかった。それはF1が開催されるようになってからも同様であり,ついに鈴鹿は時代から完全に取り残されたサーキットとなってしまった。通常,毎年30万人もの観客を集めるサーキットを,わざわざカレンダーからはずすことなど考えられない。鈴鹿サーキットを所有するホンダとしても,まさか鈴鹿からF1がなくなることなど,考えてもみなかったのだろう。その奢りが,今回の鈴鹿日本GP消滅につながってしまったのだ。

 来シーズンから日本GPは,新生富士スピードウェイに移行する。富士がリニューアルされた際,富士は鈴鹿との隔年開催を提案したという。しかし,鈴鹿は長期契約を楯にこれを突っぱねた。それが今回逆の立場に立ってしまったのだから,皮肉な話である。しかし元を正せば,長年コース内外の抜本的な改修を行わなかった,ホンダに責任があると言われても仕方ない。バーニー・エクレストン氏は,この機会に「古い家屋」になってしまった鈴鹿のリニューアルを求めている。それでも富士が開催契約を結んでいる間は鈴鹿との隔年開催も不可能であり,鈴鹿にF1サウンドが戻ってくるのは,早くとも5年後であろう。「猛き者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ・・・」

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2006年10月10日 (火)

シューミ最後の聖戦へ

 長い間追い求め,そして掴みかけていたものが,手のひらからするりとこぼれ落ちた。その瞬間,熾烈を極めたタイトル争いは,事実上の終焉した。日本GP,ミハエル・シューマッハリ衝撃のリタイヤから2日。世界各国のメディアが,その詳細を今なお伝えている。ピットに戻ったシューマッハの表情は意外にもサバサバしていた。落胆の色を隠せないスタッフ一人一人に声をかけ,抱き合う。その振る舞いはあくまで潔く,多くの人々が賞賛の拍手を送った。そしてシューマッハは,ドライバーズ・タイトルに「終戦宣言」をした。最終戦はライバルのリタイアを望むのではなく,コンストラクターズ・タイトル獲得に全力を挙げる姿勢を打ち出した。

 フェラーリの作戦は完璧だった。PPのフェリペ・マッサはシューマッハを先行させ,自らはトヨタを抜いて追い上げてきたフェルナンド・アロンソを封じた。ピットストップでアロンソに先を越されたとはいえ,すでにシューマッハは5秒以上先。チームは2回のピットストップも完璧にこなし,後はチェッカーに向かって突き進むだけだった。しかし,デグナーにさしかかったフェラーリの後方から,派手な白煙が上がる。フェラーリにとっては2001年以来5年以上も起きていなかった,レース中のエンジンブロー。これがレースといえばそれまでだが,あまりにもあっけない幕切れだった。

 今回の結果により,シューマッハのドライバーズ・タイトル獲得は,九分九厘不可能となった。唯一残された可能性は,ブラジルGPでシューマッハが優勝,なおかつアロンソがポイントを獲得しないことだけである。逆に1ポイントでいいアロンソは,決して無理をしないだろう。従ってトラブルの起こる可能性も少なく,逆転の望みはほぼ完全に絶たれたと言っていい。元F1チャンピオンのデイモン・ヒル氏は,「シューマッハはタイトルを諦めてはいない」と指摘している。ヒル氏自身もウィリアムズ・ルノー時代に,シューマッハとタイトルを争ったライバルである。タイトル獲得のためには,手段を選ばないシューマッハの恐ろしさを知っているだけに,その発言には重みがある。

 だが,ヒル氏の言うシューマッハは,10年前のシューマッハである。引退を前に全力で臨んだ日本GPが,失意の結果に終わった現在のシューマッハに,もうかつての「闇の力」は残っていない。こうなるとブラジルGPではマッサを先行させ,自らは盾となりルノーの追撃を封じ込めるつもりなのかもしれない。そして,現役最後のレースを正々堂々と戦い,勝っても負けても潔くトラックを後にする・・・。シューマッハは,そんなシナリオを描いているのではないだろうか。現在ルノーとのポイント差は9点。皇帝最後のレースは,苦楽を共にした愛すべきフェラーリのために捧げる聖戦となる。

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2006年10月 6日 (金)

アロンソは脅える兎

 勝負の流れを決する上で,勢いは重要なポイントである。しかし,風が同じ方向に吹かないように,勢いはふとしたことから変わってしまうものである。今,最も勢いに乗っているのは,8度目のドライバーズ・タイトルを射程圏内にとらえたミハエル・シューマッハ。一方のフェルナンド・アロンソは,完全に勢いを失ってしまっている。鈴鹿入りした木曜日,アロンソはチーム批判を繰り返した。先の中国GPで,チームが下した幾つかの判定が気に入らないのだ。ルノーはコンストラクターズ・タイトルを優先しており,自分のドライバーズ・タイトルは二の次だ,と。

 それに対してルノーは,アロンソの前輪のみのタイヤ交換は失敗だったとみとめつつも,チームは全力でアロンソをサポートしていると強調している。ピットストップ時のミスは意図的なものではないにしろ,ここぞというときに起きてしまった。ミスをしたメカニックが,ハンガリーGPの時と同一人物と言うから,アロンソにとっては尚気分が悪い。こうなるとアロンソは,自分の周囲全ての者が敵に見えてくるだろう。信じられるのは,己の力のみ。誰の手も借りず,タイトルは自分自身の手でつかみ取る。それがフェラーリへの過剰な闘争本能を揺り動かし,「ウェットでもドライでも勝てる」などという,強がりともとれる発言につながっているのではないだろうか。

 そもそも,シーズン前にマクラーレン移籍を発表した時点から,こうなることは予想できていた。シーズン序盤戦は,昨シーズンの勢いをそのままに,フェラーリを圧倒する走りを見せていたが,アメリカGP以降その勢いがピタリと止まってしまった。もちろんFIAの疑惑ともとれる判定で,シーズンの流れがフェラーリに傾いてしまったことは否めない。それでも,チャンピオンシップを終始リードしていたのはアロンソなのである。しかし,前戦でのシューマッハ大逆転勝利が,完全にアロンソから勢いを奪い取ってしまった。同ポイントまで迫ってきた皇帝に,アロンソが脅えているのは明らかである。

 もし日本GPでシューマッハ優勝,アロンソがリタイアとなれば,最終戦ブラジルGPを待たずして,シューマッハの前人未踏8度目のドライバーズ・タイトルが確定する。その可能性は低いと見られているが,アロンソの疑心暗鬼ぶりを見ると,もしかするとサプライズが起こるかもしれない。すなわち,天王山となった鈴鹿で,シューマッハが一気にチャンピオンを決めてしまう予感もするのである。F1はひとりのドライバーの力で何とかなるほど,甘いものではないだろう。そんなことなどアロンソは百も承知だろうが,果たして今の心理状態で冷静な判断ができるだろうか?最近妙に饒舌なアロンソが,老いて尚獲物を求める虎に睨まれ,脅え震える兎に見えた。

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2006年10月 5日 (木)

超攻撃的タッグ復活!?

 「アグレッシブ」という言葉には,ふた通りの意味がある。攻撃的なファイターという意味と,無謀な乱暴者という意味である。従ってアグレッシブという言葉は,決して褒め言葉としてだけに使われるとは限らない。ご存じの通り佐藤琢磨はアグレッシブなレーサーであり,いい意味でも悪い意味でも,この言葉が当てはまるドライバーと言っていいだろう。昨シーズンは悪い意味で使われることが多かったが,今季は幾分安定した走りを披露している。そしてもう一人,来シーズン琢磨のチームメイトとして噂されているアンソニー・デビッドソンもまた,「アグレッシブ」なドライバーとして知られている。

 デビッドソンは長らくホンダのテストドライバーを務めてきたが,これまでレースに出走したのは僅か3戦。長い下積みを経験してきたデビッドソンも,いよいよ表舞台に登場するのではないかと言われている。デビットソンは,SAF1設立時もそのドライバーリストに名を連ねていた。しかし,「戦闘力の低いSA05をドライブすることは,デビッドソンのキャリア傷をつける」というホンダ首脳陣の判断もあり,今シーズンもホンダのリザーブドライバーを続けていた。だが,シーズン終盤戦になりSAF1の戦闘力も高まってきたことから,一気に移籍話が進み始めた。ホンダのニック・フライ代表も,デビッドソンの放出には前向きであり,契約に大きな支障はないと思われる。

 琢磨とデビッドソンは,2001年イギリスF3をともにカーリンで戦い,B.A.Rホンダでも仕事をしているので,コミュニケーションは問題ない。デビッドソンのドライビングスタイルは,琢磨同様アグレッシブであり,このままいくと来シーズンのSAF1は,カーリンタッグ復活で超攻撃的なドライバーラインナップとなる。そうなると現在セカンドドライバーを務める山本左近は,テスト&リザーブドライバーとして名を連ねることになるだろう。鈴木亜久里代表も,何が何でも二人の日本人ドライバーをレギュラーシートに座らせようとは思っていないはずであり,この話は現実的なものとして受け止められている。

 「オールジャバン」という間違ったイメージを植え付けられてしまったSAF1は,ドライバーラインナップ決定にも,相当悩んだはずである。特にスポンサー関係には,「二人の日本人ドライバーを起用すること」が条件だったとも伝えられている。それが井出有治&山本左近の起用につながったのだが,電通頼みで何とか確保していた活動資金も,来シーズンはどうなるかわからない。亜久里代表の「マシンのカラーリングは赤白だなんて言ってられない。スポンサー次第」という言葉が,チームの苦しい台所事情を表している。スポンサーにアピールするには,マシンの戦闘力を上げ,少しでも上位で争う必要がある。そのためには資金が・・・。鶏が先か卵が先か,難しい決断である。

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2006年10月 3日 (火)

琢磨よ,「結果」を残せ!!

 出口の見えないトンネルを進むことほどは辛いことである。歩いても歩いても光は見えず,暗闇に足を取られて躓くばかりで,なかなか前へ進むこともできない。そんな状況の中でもがいていたSAF1に,ようやく一筋の光明がさしたのが中国GPであった。最終的に失格となってしまったが,佐藤琢磨のレース内容は今シーズンベストのものであった。しかし,琢磨の進路変更により,最終ラップで接触。4位から7位に転落したニック・ハイドフェルドは怒り心頭である。レース後には相手を勘違いして,山本左近に詰め寄ったという。BMWザウバーは,「ホンダがSAF1にハイドフェルドをブロックするよう指示した」と,怒りの矛先をホンダにまで向けている。

 琢磨は自身のHPで,「理不尽な裁定でリザルトを失った」と,怒りをにじませている。失格の理由となった青旗無視について,「最終ラップの1コーナーでハイドフェルドの前に出てから,青旗は一度も提示されていなかった」とも語っている。もしそうであれば,スチュワードの示した「青旗無視による失格」という判定には疑問符が付く。周回遅れであってもペースが速ければ,後方のマシンに道を譲る必要はない。また,レース後に琢磨は,「レース中は絶えずエンジニアとコミュニケーションをとっていた」と話しており,青旗を含む周囲の状況は,ピットから琢磨に伝えられていたはずである。

 しかし,ここで注意しなければならないのは,ハイドフェルドはジェンソン・バトン,ルーベンス・バリチェロ,ペドロ・デ・ラ・ロサという強者達と,4位争いを展開していたことである。そして琢磨が最悪のタイミングでバトンに道を譲ったことで,ハイドフェルドはバリチェロに接触し,7位まで後退してしまった。したがって,琢磨が4位争いに多大な影響を及ぼしてしまったことは,逃れようのない事実なのである。スチュワードは接触の原因となった琢磨の動きを問題視し,それに付随するものとして「青旗無視」という理由をくっつけたのだ。

 F1という弱肉強食の世界で,評価されるものさしとなるのは「結果」である。どんなに速く走っても,どんなに力強い走りをしても,結果が残せなくては意味がない。そしてその結果は,本人が決めるだけのものではないのである。今回の琢磨失格は,人によりとらえ方も様々だろう。「せっかくいい流れになったところに水を差した」と考える者もいるだろうし,「入賞が取り消されたわけではなく大きな問題ではない」とする者もいるだろう。しかしあえて言いたい。「君子危うきに近寄らず」という言葉の示すとおり,あの場面は4位集団に道を譲り,彼らの後ろでチェカーを受ければ,何の問題も起こらなかったはずである。鈴鹿ではこの勢いを結果に残してほしいと,切に願う。

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2006年10月 2日 (月)

井出有治の小さな記事

 「心臓発作に近い勝利」と,フェラーリのルカ・モンテゼモロ社長が表現した,ミハエル・シューマッハの大逆転勝利で幕を閉じた中国GP。新旧王者が同ポイントのまま日本GPを迎えるとあって,いよいよモータースポーツファンのボルテージも高まってきている。そんな盛り上がりを少しでも伝えようと,各メディアや雑誌も直前情報を連日のように記載している。その中のAUTO SPORT誌に小さく掲載されていた記事に,言いようのない悲しさを覚えた。スーパーGTを統括するGTアソシエーションが,井出有治に対して今季残りのスーパーGTに対するエントリーを受け付けないことを決定した。

 ことの発端となったのは,8月20日に行われたスーパーGT第6戦鈴鹿1000km。ザナヴィニスモZのサードドライバーを務めた井出だったが,他車と接触したことで提示されたドライブスルーペナルティの表示を見落として周回を重ねてしまう。これを重く見たレースコントロールは黒旗を提示され,最終的に失格となってしまう。無線の故障など様々な不運が重なった結果での失格であったが,コトはこれだけでは収まらなかった。GTアソシエイションは,「タワーの表示を認識しない行為は,オフィシャルの存在を軽視した行為と同義」と,残り2レースのエントリーを拒否したのである。

 井出は今シーズンGTのレギュラードライバーではないため,実質何の影響もないように思える裁定だが,これが意味するものは非常に大きい。井出は今シーズン,サンマリノGPの「アルバース撃墜」でスーパーライセンスを剥奪され,F1サーキットから閉め出されている。さらに今回,GTドライバーとしても失格の烙印を押されたわけである。プロのレーシングドライバーにとって,己を表現することのできるサーキットから閉め出されるということは,その存在を否定されたことと同じである。今回の決定は,井出のドライバーとしての価値を著しく傷つけるものである。

 もちろん井出のスーパーライセンス剥奪には,政治的な要素が多分に含まれているが,彼にF1で戦い抜く能力が備わっていなかったことも事実である。一度狂った歯車はなかなか元に戻ることはない。何とかフォーミュラニッポンにシートを得たものの,精神的にも中途半端な状態では満足な結果を得られるはずかない。そういった精神状態で臨んだ鈴鹿1000kmの結末が,自分の存在価値を一気に引き下げてしまったのである。これまで一体どれだけの人間が,井出のF1復帰を信じてきたのだろうか。それでも鈴木亜久里代表は,井出のF1復帰をサポートし続けるつもりなのだろうか。小さな記事に記されるには,あまりに悲しい結末だった。

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