« 2006年10月 | トップページ | 2006年12月 »

2006年11月30日 (木)

未完成な作品への興味

 吟味を重ね完成し,非の打ち所がないような作品よりも,その課程にある荒削りだが素質のある作品に魅力を感じてしまう。あまりに完璧な人間に対しては,それほど魅力を感じないが,若く勢いのある新人には,未来のスター性を感じ一人微笑んでしまう・・・。そんなことを楽しみにしている者も多いだろう。オフシーズンのテストは,そうした未完成のマシンやドライバーが堪能できるという,シーズン中とはまた違った楽しみがある。今週からスペイン・バルセロナで始まった合同テストでも,思わず見入ってしまう暫定仕様車や,初めてF1のステアリングを握るドライバーが登場している。

 まず暫定仕様車の中で何とも言えない魅力を感じてしまうのが,ここ数年すっかりお馴染みとなった「ブラック・ホンダ」である。新パーツ投入に備え,外部から各部パーツの状態を見えずらくするための黒装束だろうが,いかにも暫定車というカラーリングがオフシーズンを感じさせてくれる。ウィリアムズのFW28「改」もトヨタエンジンを搭載したハイブリッドカーだが,カラーリングがシーズンと同様なので,ホンダと比べるとその魅力は薄い。いっそのこと昨シーズンオフのような紺一色の暫定カラーリングの方が,ウィリアムズらしさを強調できると思うのだが。

 さて,暫定仕様車といえば,昨日登場し話題騒然のSA06「改」を語らないわけにはいかない。RA106と酷使していることについてチーム側は,「ホンダのものを使用しているのはエンジンとギヤボックスだけ。あとは全てチームのオリジナル」としているが,これは苦しい言い訳である。あれだけのタイムを出せるシャシーが造れるのなら,今までのSA06Bは何だったと言うのだろうか。改めて言うまでもなくシャシーにはややこしい規約があるのだが,鈴木亜久里代表が堂々と「RA106を借りる」言ってしまったが為に,イギリス側があわてて訂正したというのが事の真相だろう。でも昨シーズンのトロ・ロッソは,堂々とレッドブルのRB1を借りてテストしてたよなぁ・・・。

 最後にトヨタ期待の若手,小林可夢偉について。いよいよテストビューした可夢偉だが,これまでにもスパ・フランコルシャンでF1のステアリングを握ったことはある。この時はウエットコンディションだった事に加え,フルコースを使った走行ではなかったため,F1に「触れた」程度のものだった。しかし今回は,バルセロナをみっちり走行したことで,F1らしさをたっぷりと「体感」したことだろう。強烈なGフォースに「今のところ首は大丈夫だが,乗りこなすには多くの努力が必要」と次なるテストに向けた意欲を語っている。タイム的にはまだまだだが,可夢偉には何か得体の知れないものを感じてしまう。彼がはたしてどのような成長を遂げるのか,未完成な作品への興味は尽きない。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年11月29日 (水)

RA106「改」が示すもの

 言葉はとても難しく,使い方によっては非常に曖昧なものになる。それ故同じような文言でも解釈の違いにより,その意味が随分変わってしまうこともある。例えば国会で審議されている数々の法案も,解釈によっては幾らでも国を戦争に動かせる危険なものになるだろう。とは言え一国の憲法からスポーツのルールまで,全てを厳格に規定しようと思ったらそれこそきりがない。従って,合法と違法のスレスレを縫って暗躍することは,どの世界でもよくあることなのだ。 それによって引き起こされるトラブルも多々あるのだが,どんな言葉も完全でない以上,抜け道は幾らでも作ることができる。

 さて,スペイン・バルセロナではオフシーズンのテストが始まったが,ここに登場したSAF1のマシンが注目を集めている。SA06B仕様に塗られたこのマシンについてチームは側は,「RA106と擬似しているものの全くの別物」としていいるが,これは規約に対する苦しい言い訳。各部に若干仕様の違いはあるものの,先週鈴木亜久里代表が明らかにしていた通り,中身がRA106であることは間違いない。ニューマシンSA07の登場までは,このマシンでデータ取りを行うという。この日93周を重ねたアンソニー・デビッドソンは,トロ・ロッソ,レッドブルを上回る,1'19"112のベストタイムを記録した。

 SAF1のダニエレ・オーデット/マネージング・ディレクターは,来シーズンのマシンを「既存の規約の範囲内で最も競争力のあるもの」としている。これは当然,SA07がRA106をベースとしたマシンであることを示している。トロ・ロッソが「フォードが設計・製造(を委託)した」RB1をベースにSTR1を走らせたように,SAF1は「ホンダが設計・製造(を委託)した」RA106をベースにしたSA07を走らせようというのだろう。今シーズン始めにマックス・モズレーFIA会長が,「パーツが別の会社によって設計・製造されており,チームがそのマシンの知的財産権をもっているのならば,完全に合法である」と発言したことから,SAF1もこの抜け道を利用するのだろう。二番煎じもいいところだが。

 この事実を受けて,英オートスポーツなどは,「来季のSAF1はRA106の改良マシンを走らせる」と伝えている。ここでちょっと気になることがあり,辞書を引いてみた。「改良」とは「欠陥のある物を工夫して,よりよい物にすること」であり,「改造」とは,「古くなってガタのきたものを造り直すこと」であるという。来季SA07がRA106を上回るパフォーマンスを示さなければ,それは「改良型」ではなく「改造型」になってしまう。SA07が,RA106の「改良型」になるように祈るばかりである。それでもSA06から比べれば戦闘力の向上は図れるだろうから,少なくとも今シーズンよりまともな位置を走れることになるだろう。それにしても言葉とは難しい・・・。

| | コメント (2) | トラックバック (2)

2006年11月28日 (火)

生きているという奇跡

 歴史に名を残した人物だけが,必ずしも英雄であるとは限らない。歴史上は取るに足らない一市民であっても,人に負けぬ努力を重ね,人を引きつけるだけの魅力を備えていれば,誰しも英雄となれるチャンスを持っている。F1至上類い希な成績を残し,偉大なチャンピオンとして今シーズン限りで引退したミハエル・シューマッハは,数多くの栄光と共に数多くの批判も受けてきた。レンガ職人の息子が,一代で築いたサクセスストーリーは,先頃発売された自伝「ミハエル・シューマッハ 」で読むことができる。どんな内容なのか,一度は目を通してみたいものだ。読むのは大変だろうけど。

 そんな数多くの名誉と栄光を得たシューマッハでも,得られないもがあったようだ。先頃シューマッハの生まれ故郷であるドイツ・ケルペンで,彼を名誉市民にするよう動きがあったものの,市側にあえなく却下されたという。「名誉市民とは,その地に何十年と続けて居住し貢献した者に与えられるべき」という市長の考えはもっともだと思うが,絶大なる人気を誇る国民的スターであっても,そう簡単に名誉市民の称号を与えないところが,いかにもお堅いドイツらしい。居住していたわけでもないフェラーリの本拠地イタリア・マラネロが,名誉市民の称号を与えていることとは対照的である。

 さて,引退したシューマッハは地元ドイツ紙に,現役時代には表に出さなかった多くの事実を語っている。引退した理由がモチベーションの低下であったこと。フェラーリで№1待遇を求めたことはなかったこと。マクラーレンに加入しなかったのは,ロン・デニスと根本的な意見の相違があったこと。そして,もう2度とF1のコックピットには座らないこと・・・。その中で最も興味を引いたのが,故アイルトン・セナについて語ったことだった。シューマッハがF1に来たとき,セナは既に偉大なチャンピオンだった。シューマッハは世代の違うセナを超えるために激しく抵抗し,時として彼から諭されることもあった。セナを超えるためには,サーキットで自らの力を示すしか方法がなかったのだ。

 そして1994年,「悲劇のイモラ」を迎える。セナの葬儀に参列せずテストに向かったとして,当時メディアはシューマッハを痛烈に批判した。しかし,イモラの後シューマッハは,真剣に引退を考えていたという。そして,本当にもう一度走ることができるかどうか,自分自身に問いかけるためにテストに向かった。後に彼は,逆にメディアを批判する。「あの週末はセナだけでなく,ローランド・ラッツェンバーガーも亡くなっていたのに」と。あれ以来F1での死亡事故は起きていないが,人が死ぬという事実はそう簡単に受け入れられるものではない。

 『生きているということは,奇跡に近いこと』

生きたくとも生きられない人間がいる中で,自ら死を選ぶ人間がいることも,悲しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月27日 (月)

「体感」そして「文化」へ

 プロスポーツ選手は過酷な仕事である。その強靱な肉体と精神は,日々安穏と暮らしている我々と似てもにつかない。そんな彼らは,シーズンオフともると酷使した体を休め,来シーズンに向けた英気を養う。しかし,近年はシーズンオフも色々とプロモーション活動に忙しいようだ。シーズン中はファンと交流できる機会も少ないのだから,これもプロ選手として大切な仕事である。F1ドライバーもシーズン中から様々なプロモーション活動を行っているが,実際にイベントでマシンを走行させる機会となると意外に少ない。その中でもシーズンオフは,貴重なサーキット走行を伴うイベントが数多く行われる。

 日本国内でも,様々なファン感謝イベントが開催されている。先週の「SAF1☆ARTAフェスタ」に続き,23日(祝)にはツインリンク・もてぎで「ホンダレーシングサンクスデイ」が行われ,F1チームではホンダのジェンソン・バトンとアンソニー・デビッドソンが,SAF1からは佐藤琢磨が参加した。肋骨を骨折しているバトンは走行を見送ったが,琢磨&アンソニーの「イケイケコンビ」が,F1サウンドをスーパースピードウェイに鳴り響かせた。フェラーリに比べあまりに多すぎるプロモーション活動に,些かうんざりしていると伝えたれたルーベンス・バリチェロは,今回も来日しなかったようだが。

 そして昨日26日(日)には,富士スピードウェイで「トヨタ・モータースポーツ・フェスティバル」が開催された。様々なカテゴリーのマシンが集結する中,一番のイベントはこの日のために来日したラルフ・シューマッハによるTF106のデモ走行・・・になるはずだったのだが,それを上回るサプライズが用意されていた。先頃ウィリアムズに加入したばかりの中嶋一貴が,ウィリアムズ・トヨタをドライブしたのだ。F1マシンのドライブは実質初めてであたものの,「先輩」アレクサンダー・ブルツの手ほどきもあり,無事に4周の走行を終了した。ウィリアムズがこうしたイベントのためマシンと共に来日することは希であり,トヨタとの結びつきの強さを改めて感じるものと言えるだろう。

 さて,今年9月に初開催された「モータースポーツジャパン2006」を始めとして,近年日本でもモータースポーツを体感するイベントが増えてきたのは,大いに歓迎すべきことだろう。特にF1のデモ走行を目にする機会があるのは幸せなことである。これは日本企業がF1に参戦するだけでなく,その周知活動を協力して行い始めたことが大きい。いくらドライバーを輩出していても,母国企業の関わりがない国は今ひとつ盛り上がりに欠ける。母国の気運が高まれば,その分活躍するチャンスも広がるのだから,スパイカーのティアゴ・モンテイロがポルトガルGP復活を望むのも理解できる。対する日本に足りないのは,モータースポーツを「文化」とする考え方。でもこればっかりは,時間がかかるか。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月26日 (日)

大きな果実を得る日まで

 「石橋を叩いて渡る」と言う諺があるが,あまりに慎重すぎるのも考えものである。物事を保守的な考え方で進めれば,大失敗をしでかすこともないだろうが,大成功を収めることもできない。かといって革新的な考え方だけで推し進めれば,やがてほころびが生まれてきてしまう。最も大切なことは,「どこで攻め,どこで守るか」ということになる。数あるF1チームの中でも,比較的保守的なチームの一つにマクラーレンが挙げられる。ドライバーの人選やマシン作り,チーム戦略に至るまで,彼らは決して冒険をしない。エイドリアン・ニューウェイがデザインしていた近年のMP4シリーズこそ,多少の挑戦があったかもしれないが,そでとて奇をてらったものではない。

 そのマクラーレンが,来シーズンは大きな冒険をすることになる。シーズン中から何度も噂になっていたルイス・ハミルトンを,2007年からレギュラー・ドライバーとして起用することを正式に発表したのだ。一時期は後半戦を走ったペドロ・デ・ラ・ロサを継続起用し,ハミルトンには1年間みっちりと経験を積ませ,その上で2008年からデビューさせるのではないかという噂もあった。これは従来の「マクラーレン哲学」を信じる者からすれば,至極当然のことである。しかし,ロン・デニス代表はそれを行わず,ルーキーをデビューさせるという十数年ぶりの「大英断」を下したのだ。

 以前「将来有望な若手たち」でも述べたが,ドライバー人選も堅いマクラーレンが,F1経験のない新人をフル参戦させたことは過去に2回しかない。それほど保守的だったマクラーレンが新人を起用するのだから,デニス代表がハミルトンにかける期待も大きい。カート時代からまさに手塩にかけて育ててきたハミルトンを,「速さと驚異的な精神力があり,未来のチャンピオンとなる器を備えている」と評している。しかし,ユーロF3,GP2と立て続けにチャンピオンを獲得してきたハミルトンでも,F1は全く別物である。まずはオフテストで十分に走り込むことが,デビューに向けての第一歩となるだろう。

 さて,「チャンピオン・タッグ」をレギュラーシートに据えたマクラーレンは,来シーズンをどのように戦うつもりなのだろうか。いくらドライバーが強力とはいえ,1年目から快進撃ができるほどF1は甘い世界ではない。マクラーレンにはエンジニアリング部門の問題が山積しており,まずはチームの基礎体力を上げることが求められる。それに加え,最近妙に動きの忙しいミカ・ハッキネンも気になる。年齢的にもテストドライバーになることはないだろうが,ミハエル・シューマッハ同様,チームのアドバイザーに就任する可能性は十分にあるだろう。来シーズンはハミルトンという種をまき,ハッキネンの力を借りて育て上げる・・・。大きな果実を得るまでは,今しばらくの時間が必要だろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月24日 (金)

黒くて丸い4本を学べ!

 「タイヤは命を乗せている」と言われる。数え切れないほど多くのパーツで構成されている自動車の中で,最も重要なパーツの一つであるタイヤ。どんなに高性能の車に乗っていても,タイヤの性能が落ちていたのでは快適なドライビングが楽しめるはずもない。それがレーシングカーともなればより顕著に表れ,一歩間違えれば大事故にも繋がりかねない。タイヤの性能で勝敗が決まってしまうことも日常茶飯事である。F1に於いてもここ数年,ミシュランVSブリヂストンのタイヤ戦争が続き,数々のレースでタイヤが勝敗の行方を大きく左右してきた。同じように黒くて丸くて4本あるタイヤが,メーカーによって全く違う特性を示すのだから,見ている方としては非常に面白かった。

 そのタイヤ戦争も2006年を以て終了し,来シーズンからはブリヂストンのワンメイク供給となる。過去には結果的にブリヂストンのワンメイク供給となったシーズンもあったが,来季からはルールとしてのワンメイク供給が始まる。となれば,今季ミシュラン陣営だった6チームも,そのタイヤを勉強しなければならない。ミシュランの足下に支えられ,2年連続チャンピオンチームとなったルノーも同様であり,パット・シモンズ/エンジニアリング・ティレクターも,「肝心なのは,ブリヂストンタイヤを学習すること」と,まずはオフテストでその基本特性を理解したい考えを示した。

 F1だけでなくサスペンションの可動範囲が少ないフォーミュラカーでは,タイヤがそれに変わる役割を果たすことになる。従って,サスペンションとタイヤとのマッチングは非常に重要なポイントであり,各チームともタイヤ選択とサスセッティングには多くの時間を費やしている。シーズン中のテストも,メニューのほとんどはタイヤの比較テストであり,ワンメイク化となった理由の一つは,そうしたテスト費用高騰を押さえることだった。熾烈なタイヤ戦争の中で作られたタイヤは,非常にスイートスポットの狭いものであり,少しでもタイヤ選択を誤ってしまうと,ライバル陣営に大きく水をあけられてしまう。雨の中国GP予選で展開された光景は,それを如実に物語るものだった。

 さて,ワンメイク供給はブリヂストンにとっても新たな挑戦である。どのチームにも満足されるタイヤなどあり得ないが,タイヤによって有利不利があからさまになってしまうことは許されない。ブリヂストンはイコールコンディションを強調しているが,現時点でフェラーリが有利であることは明らかである。来シーズンからはもう「マシンの性能を最大限に引き出すタイヤ」が開発されることはない。各チームも「タイヤの性能を最大限に引き出すマシン」を開発することが求められる。タイヤ・マシン・ドライバーと見所満載のオフテスト第1弾は,来週28日(火)からスペインのバルセロナで始まる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月23日 (木)

「命の危険」を考えれば・・・

 我々が働いて受け取る賃金は,労働への対価である。しかし,自分の受け取っている賃金に納得している人間の方が少ないのかもしれない。かく言う私もその一人である。それは置いておくとして,労働者が雇用主から受け取る金額は,職種や労働時間,労働条件によって様々である。従って,常に死と隣り合わせで戦っているレーシング・ドライバーが高額所得であっても何ら驚くことはない。レーシング・ドライバーの労働環境は,他職種に比べ格段に危険である。一歩間違えば取り返しの付かないリスクを背負いながら戦う彼らには,それ相応の対価が払われてしかるべきだろう。

 このほどスペインの「マルカ」紙が,SAF1佐藤琢磨の年収を約770万ドル(約9億円)と伝え話題になっている。この金額は2年連続チャンピオンであるフェルナンド・アロンソが今季受け取った年収,約720万ドル(約8億5000万円)を上回るものであるという。さらにこの報道を受けて各紙は琢磨を,「最後尾からレースに臨んでいたものの,F1で最も稼いでいるひとり」とした上で,「この数字が正しければ琢磨の収入は,デビッド・クルサード,マーク・ウェバー,ジェンソン・バトン,そしてジャンカルロ・フィジケラよりも多いことになる」と,皮肉めいた表現で記事を書き連ねている。

 しかし,この報道には些か作為的なものがある。アロンソら琢磨より「収入の少ない」とされたドライバーの年収が,チームから支払われる純粋な「年俸」なのに対し,琢磨の年収はそれにスポンサー契約料を上乗せした額である。琢磨は個人スポンサーを数多く抱え,CM出演なども行っていることから,スポンサー収入の割合が多いことは簡単に想像できる。このほどSAF1に加入したアンソニー・デビッドソンの推定年俸は25万ドル(約3000万円)と言われており,いかに琢磨がエースドライバーとはいえ,新興チームがドライバーに支払う賃金はそれほど多いものではないだろう。そう考えると,琢磨の受け取っている年俸はそれほど高額ではなく,妥当な金額と言っていい。

 今シーズン限りで引退したミハエル・シューマッハが受け取っていた年俸は,日本円で約45億円とも言われていた。皇帝の名にふさわしい金額だが,他のドライバーはせいぜい20数億円が最高額。世界にたった22人しかいないF1ドライバーではあるが,その平均収入は思ったよりずっと少ないものである。ましてや他のカテゴリーで走るドライバーに至っては,雀の涙だろう。世界のスポーツ選手の中には,これを上回る収入を得ている者も少なくない。それらのスポーツ選手が,世界に類を見ない優秀な人物であることは否定しないが,命まで取られる危険があるのは,レーシング・ドライバーくらいのものだろう。とすれば琢磨の9億円など,安いものではないか。でも正直,羨ましい・・・。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2006年11月22日 (水)

仁義なきシート争奪戦

 人間は強欲な生き物である。自分のポジションを少しでも高めるために日々努力することはもちろんだが,時として他人を蹴落としてでも自分の地位を高める者もいる。豊かで何不自由のない環境で育った者でも,いざ社会に出てしまえば頼れるのは己の力のみである。それほど社会は厳しく,生き残るためには多くの犠牲を必要とする。ましてやそれが競争原理に基づいたプロフェッショナルの世界ならば尚更である。たった22しかないF1のレギュラーシートを得るために,今も若者達の戦いが続いている。

 2006年シーズンが終了して1ヶ月。これまでに来季のレギュラーシートはほぼ埋まり,現在未確定なシートは,マクラーレンとスパイカーに一つずつあるだけである。マクラーレンはルイス・ハミルトンが,スパイカーにはティアゴ・モンテイロが有力視されており,他のドライバーがここに入り込むのは難しい情勢である。最もレギュラーシートに近いテストドライバーのシートはというと,これもなかなか難しい。ホンダがクリスチャン・クリエンを起用するなど,上位チームのほとんどが来季の体制を確定しており,残されているのはトロ・ロッソ,スパイカー,SAF1など下位チームのポジションのみとなっている。ここから先は,持ち込むスポンサー額がものを言うことになるだろう。

 さて,幸運にも(或いは実力で)そのポジションをもぎ取ったドライバーたちは,来季に向けての体制を固めつつある。BMWザウバーのサード&テストドライバーを継続するセバスチャン・ベッテルは,来季ワールドシリーズ・バイ・ルノーへの参戦が決定した。同シリーズはBMWザウバーの先輩でもあるロバート・クビサや,SAF1で活躍しトヨタに移籍したフランク・モンタニー,更にさかのぼれば,今をときめくフェルナンド・アロンソもチャンピオンを獲得しステップアップを果たしたカテゴリーである。マカオGPでは思うような走りができなかったベッテルだが,その才能は誰もが認めるところ。F1とWSRの二足のわらじを履く来季は,更に忙しい週末を送ることになりそうだ。

 一方で今季終盤3戦に,クリエンに代わってレッドブルから出走したロバート・ドーンボスは,未だに来季の就職先が決まっていない。一時はトロ・ロッソでのレギュラー昇格が噂されていたものの,共同オーナーのゲルハルト・ベルガー氏がその可能性を否定。最も可能性が高いのは,今シーズン同様レッドブルのテストドライバーを務めることだが,ミハエル・アメルミューラーの可能性もあり確信は持てない。ドーンボスはチャンプカー行きも視野に入れながらの就職活動となるだろう。クリエンがF1にこだわり続け,結果的にホンダに見いだされたことを考えると,何とも皮肉な話である。一方に笑うものあれば,一方に泣くものあり。仁義なきシート争奪戦は,まだまだ続きそうだ。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月21日 (火)

節目の先に待つ飛躍

 成人,就職,結婚,出産・・・。人生には数多くの節目がある。その節目となるときは自分の身を律し,更なる成長のためもう一度原点に立ち返る必要がある。6月に立ち上げた当サイトも,この記事がちょうど100本目となる。モータースポーツを愛する数多くのサイトと比べれば,本数も内容もまだまだだが,細々と続けていくことにもまた意味があるだろう。「日本生まれのプライベートチームによるF1参戦」という,日本のモータースポーツ史に残る偉業を成し遂げたSAF1。今回は原点に立ち帰って,誕生から1年を経過したSAF1についての記事を書いていきたい。

 昨日「SAF1☆ARTAフェスタ」が行われ,月曜日にもかかわらず多くのファンが鈴鹿サーキットに詰めかけた。SAF1のドライバーとスタッフも参加し,その成長を温かく見守ったファンに感謝の気持ちを伝えた。参加したドライバーは,SAF1の佐藤琢磨,山本左近,井出有治を始めとし,IRLから松浦孝亮,フォーミュラ・ニッポンから金石年弘,F3から塚越広大という面々。モータースポーツのピラミッドを形成する多くのカテゴリーに,鈴木亜久里代表率いるARTAが関与していることがわかる。カテゴリーの異なるフォーミュラ・マシンによる模擬レースや,同乗走行に加え,鈴木亜久里代表自らもSA06Bをドライブするなど,ファンにはたまらない内容で1年の幕を閉じた。

 さて,誕生から僅か1年,怒濤のシーズンを終えたSAF1だが,来季は更なる飛躍が望まれる。先日正式に加入が発表されたアンソニー・デビッドソンも,「来季は必ずポイントを獲得する」と宣言している。F3のカーリン,B.A.Rと共に仕事をした琢磨とのコンビネーションも問題ない。超攻撃的タッグの復活は2年目に向け好材料だが,問題はマシンである。来シーズンからのカスタマーシャシー案が却下された現在,SAF1は来季用のニューマシン「SA07」の開発を急いでいるはずである。以前琢磨が「新しいクルマに乗るのは年明け」と語っていたことからも,年内のテストはないと思われていた。

 オフシーズンのテストは,今月末からスペインのバルセロナで始まる。しかし亜久里代表は,「そこで走るのはこのクルマではない」と,意味深な発言をしている。「このクルマ」とは。ただ単純に「鈴鹿を走ったSA06B」とも受け取れるが,そんな当たり前のことはわざわざ言うまでもないこと。トロ・ロッソが来季に向け自社製のシャシーの開発を明言する中,今もSAF1は来季からホンダシャシーを使用できるよう,各チームに働きかけているという噂もある。現行のコンコルド協定には知的所有権についての規制があるが,解釈による抜け道もまた数多くある。問題はその抜け道を,他のチームが認めるか否かである。一つの節目を終えた先には,また新しい1年が待っている。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年11月20日 (月)

マカオの悪魔が牙をむく

 期待していたものが大きいほど,失意の結果となった後の落胆もまた大きい。先週末は久しぶりに,「天国と地獄」を見た週末だった。モータースポーツもつかの間のシーズンオフとなったが,アジアの片隅では熱いレースが繰り広げられていた。若手の登竜門として有名な,F3のマカオGPである。今年で53回を数えるこのレースは,将来のF1ドライバーを目指す名うてのF3使いが,世界中から押し寄せてくる。統一規格のF3ではこうした世界一決定戦が幾度となく開催されているが,マカオGPはその中でも最も権威のあるGPと言っていいだろう。市街地に作られた1周6.117kmの超テクニカルな「ギア・サーキット」は,今年もF3ボーイズ前に大きく立ちはだかった。

 今年のマカオGPは,2001年の佐藤琢磨以来,久しぶりに日本勢の優勝が期待されるレースだった。平手晃平,中嶋一貴,小林可夢偉のユーロF3組に加え,日本F3組からも塚越広大,大嶋和也らが参戦。冬季オリンピックでよく耳にした「表彰台独占も夢ではない!」などという,根拠のない期待感を抱いてしまうほどだった。実際に予選レースまでは日本勢に流れがきていた。一貴こそセッティングが決まらず多少出遅れたものの,予選2回目では可夢偉&晃平が見事フロントロウを独占。翌日の行われた10周の予選レースでは可夢偉がF3初勝利!晃平も3位と,いよいよ期待が確信に変わろうとしていた。

 しかし,レースは別物である。マカオの悪魔は日本勢に牙をむいた。スタートで出遅れた可夢偉は,1周目のリズボア・ヘアピンで痛恨のオーバーラン。何とか再スタートを切ることはできたものの,大きく順位を落としてしまう。一方,可夢偉の後退で2位を走行していた晃平と3位に順位を上げた一貴も,7周目にリズボアで絡み共にマシンにダメージを追ってしまう。5位までポジションを上げていた塚越もトラブルで後退。結局優勝はイギリスF3王者のマイク・コンウェイ。日本勢は大嶋の7位が最高位という,前日までの快進撃からは想像もつかない結果となってしまった。

 失意の結果が意味するものは,果たしてなんだろうか。レースではいくら速さを示そうと,チェッカーを受けなければ意味がない。初日から好調を維持した日本勢はあったが,最後の最後まで走りきる強さが足りなかった。しかしそれは他の有力ユーロF3勢も同じである。ユーロ王者のポール・ディ・レスタも,同2位で今回はカーリンから出走したセバスチャン・ベッテルも,期待通りの結果を残すことはできなかった。それでも可夢偉や晃平の速さは,世界のモータースポーツ関係者に伝わったはずである。一貴がウィリアムズと契約したことが,二人の闘争心をかき立てたことは想像に難くない。これからも成長を続ける期待の若手を,今後も見守っていきたい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月17日 (金)

The Power and Mileage

 「The Power of Dreams」CMでもよく目にする,ホンダのキャッチコピーである。最近でこそ環境問題に積極的に取り組むことは,自動車メーカーの生き残る道とされている。しかし,つい20年前までは「The Dream of Powers」の時代であった。日本の自動車メーカーの中でいち早く環境技術に着目していたホンダも同じである。当時のF1はターボ全盛時代。1000馬力を超える獰猛なエンジンを搭載したマシンが,サーキットを駆けめぐっていた。その終焉の年となった1988年にはマクラーレン・ホンダが,16戦15勝という前人未踏の記録を打ち立てている。しかし,そのあまりの速さからターボエンジンは消滅し,自然吸気エンジンの時代となった。

 ところがマックス・モズレーFIA会長は,自然吸気エンジンはいずれ終焉を迎え,ターボエンジンの時代が来るという。これは一体どういうことだろうか。現行のエンジンは来シーズンから3年間,基本的な開発が凍結される。それ以降のエンジン・レギュレーションについては,各メーカーとの話し合いが進められているが,中でも争点になっているのは「環境性能」である。環境問題が深刻化するにつれ,ガソリンを大量消費するイメージの強いモータースポーツは風当たりが強くなる。その頂点に位置するF1が環境問題を意識することは,時代の流れから見れば当然のことである。

 新世代F1エンジンの基礎となるレギュレーションは,果たしてどのようなものになるのだろう。モズレー会長は以前にも,「使用できる燃料の量を制限する代わりに,排気量を指定しないことを考慮している」と語っている。燃料が制限されるということは,パワーと燃費が両立されたエンジンを開発する必要がある。現行エンジンは開発の余地が極めて少なく,出力を1%上げるために莫大な資金が投じられている。重箱の隅を顕微鏡でつつくような開発を続けるよりも,生産者にフィードバックできる環境技術を駆使してエンジン開発をする方が,自動車メーカーにとってもメリットが大きいだろう。

 モズレー会長によれば,ターボエンジン復活の目的は,効率的な燃料消費を目指すためだという。しかし,これは各メーカーの考え方次第だろう。一般的にターボエンジンはパワーは出るものの燃費が悪く,パーツ数も増えるため当然重量も重くなる。それでもターボエンジンを復活させるというのであれば,そのデメリットを補う技術を競うこととなる。いずれにせよ新世代エンジンは,燃費がキーワードとなることは間違いない。新しい技術に挑戦することほど,エンジニアの心をくすぐるものはない。「燃費性能こそ環境性能」と謳うホンダなど,喜々として開発に取り組むだろう。3年間のエンジン凍結が終わった時,あっと驚くようなエンジンが登場するかもしれない。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2006年11月16日 (木)

SAF1パズルが出来てきた

 一つのピースが決まると,立て続けに残りのピースが決まっていく。ジグソーパズルなどを作っているときによく起こることだが,ジグソーパズルは人事にもよく例えられる。F1でもストーブリーグ(プールリーグ)が始まると,あちらこちらでこのジグソーパズル現象が起きる。今回ホンダ&SAF1の来季体制発表がほぼ同時だったことも,これを物語っている。かねてから噂のあったとおり,SAF1は来シーズン佐藤琢磨のパートナーに,アンソニー・デビッドソンを起用することを正式発表した。そしてデビッドソンが抜けたホンダのリザーブ&テストドライバーには,今シーズン終盤3戦を残してレッドブルを解雇された,クリスチャン・クリエンが収まることとなった。

 デビッドソンは2001年から6年に渡りホンダのテストドライバーを務めたていたことで,速さ・開発能力とも高いレベルを維持している。過去にミナルディから2戦,B.A.Rから1戦出走をしているが,そこでは印象的な走りを見せることはできなかった。しかし,テストや金曜セッションでも常に上位のタイムを出していたことからも,その能力を疑う者は少ない。デビッドソンは今シーズン始めSAF1が誕生した際にも,そのドライバーリストに名を連ねていた。しかし,アロウズベースのSA05では最下位争いに終始することが目に見えていたため,ホンダ側の意向もありこの時の参戦は見送られている。あれから1年,実力をつけつつあるSAF1から,念願の本格参戦を果たす。

 一方のクリエンは,F1シート喪失の危機さえあった。レッドブルのF1シートを追われた彼は,チームが用意したチャンプカーのシートを断り,完全にレッドブルから解雇された。それでもあくまでF1にこだわり続けたクリエンだったが,各チームのレギュラーシートはほぼ満席。しかし,捨てる神あれば拾う神あり。ホンダがデビッドソンの後任としてクリエンに白羽の矢を立てたのだ。まだ23歳という若さで,46戦というF1出場経験は魅力である。マクラーレンを離脱したゲイリー・パフェットとのシート争いに勝つことができたのも,ホンダがこの経験と将来性を評価したからだろう。

 さて,日本人にとって最も気がかりなのが,山本左近の去就である。チームは「テストドライバーの起用については追って発表する」としており,今後の状況は不透明である。SAF1の「日本人ドライバーにチャンスを与える」というコンセプト(くどいようだが,「オール・ジャパン」ではない)からすれば,徐々に成長しつつある左近を,リザーブ&テストドライバーとしてチームに残すことが予想される。しかし,それとて安泰というわけではない。最近はトヨタ系の若手が賑やかだが,フォーミュラ・ニッポンを走る若手も虎視眈々と狙いを定めている。あとはスポンサーだが・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年11月15日 (水)

「勝ち組」マクラーレン?

 一昔前「勝ち組・負け組」という言葉が盛んに使われていた。そもそも生き方に勝ち負けはないものだと思うのだが,この言葉は格差社会を端的に反映した言葉としても大きく取り上げられていた。この世に競争がある限り,皆が平等な社会など実現できるわけがない。かと言って無理に競争をなくしてしまえば「悪平等」な社会が生まれ,人々から輝きが失われることもまた事実である。さて,前置きが長くなったが,F1を始とするモータースポーツも,歴然とした格差社会である。持つべきモノを持つ者は,高いレベルでの競争に参加することができるが,そうでない者は,「勝ち組」のおこぼれに与るしかない。まさに弱肉強食の世界である。

 この弱肉強食の世界で長らく王座に君臨してきたマクラーレンの親会社である,マクラーレン・グループの経済状況が明らかになった。それによると,2003年度に2億9700万ドル(約348億円)だった総売上が,2005年度には4億2200万ドル(約494億円)にまで上昇したという。この売り上げ躍進の起爆剤となったのが,メルセデス・ベンツから生産を請け負っているスーパーカー「SLR」だという。この1台45万ドル(約5300万円)のスーパースポーツの生産が軌道に乗り,昨年度は2300万ドル(約26億9100万円)の経常利益を上げたことが,マクラーレン・グループの大幅増益に繋がった。

 マクラーレン・グループは,企業18社をまとめた本拠地である「マクラーレン・テクノロジーセンター」の建設に多額の資金,一説では3億5000万ドル(約409億5000万円!)とも言われている巨額を投じた結果,一時経営不振に陥っていると伝えられていた。しかし,この負債をダイムラー・クライスラーが肩代わりすることで,マクラーレンへの影響力を強めたとも言われているが,真相は定かではない。マクラーレン・グループの総帥ロン・デニスは,巨万の富と名声を得たことで,これ以上F1に固執する必要はない。果たして彼は,あとどのくらい現在のポジションに留まるのだろうか。

 さて,フェルナンド・アロンソの加入に伴い,マクラーレンには多くのスペインマネーが流れ込んでいる。加えて今シーズン始めに発表されていたように,ボーダフォンがタイトルスポンサーを務めることで,チームの経済状態は長期にわたって安定するものと思われる。しかし,それがすなわち速さに結びつくわけではない。今シーズン限りでマクラーレンを後にしたキミ・ライコネンは,「5年間で僅か11勝しか挙げられなかったのは,マシンに一貫性がなかったから」と発言している。ミハエル・シューマッハがフェラーリで行ったことをアロンソも行い,再びマクラーレンを「勝ち組」にすることができるのか。その答えが出るまでには,まだまだ長い時間がかかりそうである。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月14日 (火)

厳しきアメリカン・ドリーム

 アメリカは「人種のるつぼ」と言われる。そこでは多種多様の民族が暮らし,様々な文化を築いている。多くの移民を受け入れてきた国であるが故に争いも絶えなかったが,そこで実力が認められれば,どんな人種であっても成功への階段を駆け上がることができる。「アメリカン・ドリーム」と言われる所以であろう。モータースポーツの世界でも,成功を夢見て多くの人々がアメリカに渡った。かつてアメリカ以外は中南米からの参戦がわずかにあったCART(現IRL&チャンプカー)にも,ヨーロッパや日本からの挑戦者が増え,今ではすっかり国際的なカテゴリーとなった。無論,勝者より敗者の方が多いが。

 しかし,アメリカン・モータースポーツの中で最も人気のあるカテゴリーは,なんと言ってもNASCARである。その人気はMLB(野球),NBA(バスケットボール)と並び,NFL(フットボール)やNHL(アイスホッケー)を凌ぐ勢いだという。そのNASCARでも最も権威のあるネクステル・カップへ,一人の元F1ドライバーが参戦する。今シーズン途中でF1を電撃引退した,ファン-パブロ・モントーヤである。チップガナッシは最終戦ホームステッドに,モントーヤをエントリーしたことを明らかにした。しかし実際にレース出場するかは,今のところ未定という情報もある。もし出場した場合,後方グリッドから「コロンビアの暴れん坊」がどこまで戦えるかに注目が集まる。

 その一方で同じくNASCAR参戦が噂されていたジャック・ビルニューブは,来シーズンの行き先が不透明になっている。ブッシュシリーズに参戦するラウシュ・レーシングと契約交渉をしていると言うが,来季の参戦は難しい状況だ。CART時代の古巣であるチップ・ガナッシと契約したモントーヤとは異なり,NASCARへの足がかりがないビルニューブにとって,契約交渉は思いの外難しいものなのかもしれない。NASCARは他に類を見ないある種独特のカテゴリーである。仮に参戦できたとしても,CARTやF1でチャンピオンとなったビルニューブでも,そう簡単に成功するとは限らない。

 最後にアメリカン・モータースポーツに挑戦する日本人ドライバーの話を。現在チャンプカー・NASCARに参戦している日本人ドライバーはいないが,IRLにはスーパーアグリ・フェルナンデスレーシングから出場し今年で3年目を終えた松浦孝亮が,唯一レギュラードライバーとして激戦を戦っている。4年目となる来季は,2001-02年のチャンピオンチームであるパンサーとスーパーアグリがジョイントした,スーパーアグリ・パンサーレーシングからのエントリーとなる。速さは見せるもののなかなか結果に結びつかなかった松浦も来季は正念場。新体制となっても結果を残せないようなら,ARTAも次のドライバーを捜すことになるだろう。F1も厳しいが,アメリカン・ドリームも厳しい・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2006年11月12日 (日)

「参加」から「勝利」へ

 オリンピックには「参加することに意義がある」という人もいる。世界最大規模の大会に参加するためには厳しい標準記録をクリアする必要があり,それを突破するだけでも容易なことでない。いかにアスリートといえど「参加できただけで満足」という考え方があっても無理はない。サッカー・ワールドカップにも,似たような見方があった。しかし,日本が3大会連続出場を果たした現在は,もはや参加するだけでは満足していてはいけないという考え方が主流である。世界3大スポーツのF1も同様である。1987年に中嶋悟がフルタイム参戦を果たしたとき,「日本人が参戦できただけで満足」という見方がもっぱらだった。時は流れ,あれから20年。今はそんな甘い時代ではない。

 先日TDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)の活動報告会が行われ,中嶋一貴のウィリアムズ加入に続き,平手晃平,小林可夢偉にもトヨタF1でのテストドライブの機会が与えられることが明らかになった.。もっともこれは,ある程度予想されていたことである。3人の契約主はトヨタ自動車であり,ウィリアムズやTMGへはレンタルされる形になると伝えられている。ゆくゆくはこの若き才能をトヨタF1のシートに座らせることが,トヨタ本社の目標だろう。日本チームに日本人ドライバーが乗ることがどれだけの効果をもたらすかは,今年のSAF1の注目度が物語っている。

 一貴&晃平の二人は,来季GP2へのステップアップが確認された。一貴はDAMSから,晃平はトライデントからのエントリーとなる。GP2はF1のサポートレースであると同時に,最大級の次期F1ドライバーマーケットでもある。ユーロF3のような走りを1年目から見せることができれば,2008年のシート獲得も決して夢ではない。一方の可夢偉は,もう1年ユーロF3に残り,2年目でのチャンピオン獲得を狙うこととなる。昨シーズン可夢偉と共にフォーミュラ・ルノーを戦ったミハエル・アメルミューラーは,今シーズンGP2に飛び級。さらにレッドブルのサードドライバーを務めるなど,注目を集めている。可夢偉もそれを意識しているだけに,来季に期待がかかる。

 さて,トヨタ三銃士の中で,もっとも可能性を秘めているのは誰だろうか。人により見方考え方も様々だろうが,個人的には可夢偉を見つめていきたい。筆者と誕生日が同じ,というどうでもいい理由はさておき,速さだけでなくその図太い性格が魅力である。SAF1の鈴木亜久里代表も「可夢偉はいいものをもっているよね」と,その才能を評価している。来季もAMSからエントリーする可夢偉には,チャンピオン獲得が命題となる。もはや日本人ドライバーにとってF1は,「参加することが意義がある」カテゴリーではなくなった。次に求められているのは,「勝利すること」である。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月10日 (金)

霊峰富士の麓で

 富士山は美しい。長年富士山を見続けていているが,見慣れることはあっても見飽きることはない。つい先日も富士山に足を運ぶ機会があったが,改めてその雄大さと美しさを感じることができた。霊峰富士の麓で行われる新生日本GPは,「どこまでも美しく,いつまでも感動を!」というテーマ通り,日本を代表する最高のロケーションの中で行われることになるだろう。鈴鹿という,ドライバーにもファンにも人気の高いサーキットでの開催が無くなるのは残念だが,リニューアルされた富士スピードウェイを22台のF1マシンが走る姿は圧巻だろう。日本GP観戦に二の足を踏んでいた関東圏に住むファンにとっても,距離的に近い富士であれば比較的気軽に行くことができる。

 しかし,そこに問題がある。さんざん指摘されているように,富士周辺の交通事情は最悪である。新生富士のこけら落としイベントとなった,昨年5月のスーパーGT決勝では,5万人程度の観戦者にもかかわらず,レース終了後のサーキット周辺は完全に交通マヒを起こしてしまった。高速道路に続く幹線道路はもとより,車1台がやっと通れる山道まで,ナビを頼って迷い込んだ車でごった返したのだ。交通網の整備は進めらているものの,来年秋までに全てが完成するはずもなく,3日間で28万人と予測されている来場者を混乱なく誘導するには,周辺への自家用車乗り入れを禁止する以外方法がなかった。

 今回発表された日本GPの開催要項では,会場へのアクセスを制限し,シャトルバスによる「チケット&ライドシステム」を取り入れるとしている。これは1994-95年にTIサーキット英田(現岡山国際サーキット)で行われた,パシフィックGPでも取り入れられた方法である。電車で来場する場合は,沿線の指定駅から無料シャトルバスを運行。自家用車の場合は富士裾野方面及び山中湖・河口湖方面に野外駐車場を確保し,そこからシャトルバスによるピストン輸送を行うという。さすがに今回は,パシフィックGPのような「サーキット周辺に住んでいても,シャトルバスに乗らなければならない」というようなことはないと思うが・・・。

 さて,新生日本GPでもう一つ話題になったのが,GPの開催契約に関することである。これまで伝えられていた話では,富士はFIAと5年間の開催契約を結んだと言われた。しかし実際は,正式契約が締結されたのは2007年のみであり,2008年以降の契約は承認されていないということを富士スピードウェイの齋藤明彦会長が明らかにした。富士側は再来年以降の開催を希望しているが,FIAは開催の様子を見て今後の判断したいのだろう。そうなると来年の初開催は,富士にとって絶対に失敗できないイベントとなる。FIAにも,チームにも,そしてファンにも納得できるようなGP運営は難しいだろうなぁ。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年11月 9日 (木)

20年の時を経て・・・

 チャンスはどこに落ちているかわからない。チャンスをつかむためには,「適切な時期に,適切なポジションにいることが求められる」と昨日記したばかりだが,それを掴んだ若手がまた一人誕生した。ウィリアムズが来シーズン,中嶋一貴とテストドライバー契約を結んだことを正式発表したのだ。来シーズンのウィリアムズにはトヨタ・エンジンが搭載されるため,トヨタがドライバー人事にも口を出してくることは十分考えられていた。従ってTDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)の一員であり,GP2のテストに参加していた中嶋か平手晃平のどちらかがテストドライバーに起用されるという話は,以前から囁かれていたことだった。

 では,なぜ平手ではなく中嶋が起用されたのだろうか。今シーズン激戦のユーロF3にマノーから参戦していた二人は,共に1勝をあげ平手がシリーズ3位,中嶋がシリーズ7位の成績を収めた。これだけだと平手の方が上位ということになる。しかし,平手がユーロ2年目なのに対し,中嶋はF3経験が豊富なものの今年がユーロF3初参戦。その中で光る走りをしたことが,トヨタ本社サイドの高い評価に繋がったと言われている。中嶋はGP2初テストでもルーキー最上位のタイムを記録し,チーム関係者に好印象を与えた。彼の適応力の高さは,F1をドライブする際も大きな武器となるだろう。

 さて,そのウィリアムズを離脱する,マーク・ウェバーは「ウィリアムズはドライバーの意見を聞く耳を持っていない」と,捨て台詞を残している。自らの技術力に絶対の自信を持っているウィリアムズにおいて,ドライバーはチームの一部分でしかなく,彼らの意見に耳を傾けなかったとしても不思議ではない。確かに1990年代のウィリアムズは「リアクティブ・サスペンション」を搭載したFW14Bなど,革新的なマシンを次々と世に送り出し,ルノーと共にチャンピオンチームとしてF1界に君臨していた。しかし,その自信が自らの過ちを正すことなく突き進む結果となり,BMWやコスワースとの「喧嘩別れ」に繋がってしまった。トヨタの加入でどこまでこの体質が改善されるか・・・。

 ウィリアムズ入りする中嶋は,早ければ今月末のテストからステアリングを握ることになるだろう。チームにはもう一人のテストドライバーであるナレイン・カーティケヤンがいるが,彼の契約にリザーブドライバーは含まれていない。今回の中嶋の契約がリザーブドライバーを含むものであるかは不明だが,もしテストでカーティケヤンを凌ぐタイムを出そうものなら,来シーズンの金曜日には,サーキットを走る中嶋の姿が見られるかもしれない。日本人F1ドライバーのパイオニア,中嶋悟がF1デビューを果たしてからちょうど20年。そのDNAを引き継ぐ息子が,20年の時を経て再びF1に帰ってくる。 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月 8日 (水)

チャンスを生かす能力

 モータースポーツは弱肉強食の世界であり,いわゆる負の連鎖を断ち切ることができないと,その先に進むことなくドロップアウトしてしまう。一転,目の前に立ちはだかっていた壁が取り除かれると,途端に力を発揮することもあるからわからない。今シーズンの佐藤琢磨などは,そのいい例である。ジェンソン・バトンという呪縛から解き放たれた途端,見違えるような走りを披露した。かといって来シーズン,フェルナンド・アロンソという呪縛から解放されるジャンカルロ・フィジケラが,同じように速さを発揮できるとは限らない。本人は「来季は主役になる」と鼻息が荒いが。

 さて,今やすっかりF1への登竜門として定着したGP2は,スペインのへレスでテストを繰り返している。オフシーズンのテストは,来シーズンのシートを決めるためのオーディションという意味合いが強い。そしてここには,TDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)の一員である中嶋一貴と平手晃平が,今シーズン日本人で唯一参戦していた吉本大樹とともに参加している。DAMSから参加した一貴は,26台中6番手のタイムをたたき出し,周囲にその速さをアピールしている。一方トライデント・レーシングのマシンを駆った平手は18番手にとどまったものの,先週のポールリカールテストでは好タイムを出しており,こちらも関係者の評価が高い。

 数年前にも,未来のF1ドライバーとして嘱望された3人がいた。2001年イギリスF3王者の琢磨,同じくドイツF3王者の金石年弘,そしてフランスF3王者の福田良である。3人とも激戦のヨーロッパF3を舞台にその才能を遺憾なく発揮し,日本人トリオによるF3タイトル独占という偉業を成し遂げた。しかし,その中でF1ドライバーとして活躍できたのは,ご存じの通り琢磨だけである。金石は日本に戻りフォーミュラ・ニッポンに参戦するも伸び悩み,未だ負の連鎖から抜け出していない。福田はヨーロッパに残りB.A.Rのテストドライバーとなるものの定着することはできず,A1やワールドシリーズ・バイ・ルノーに活躍の場を求めたが,以前のような速さを発揮することはできていない。

 中嶋・平手,そして小林可夢偉の「TDP三銃士」が,今最もF1に近い日本人ドライバーであることに疑いの余地はない。しかし,3人が3人ともF1ドライバーになれるとは限らない。かつての「F3チャンピオントリオ」と同じように,誰か一人がステップアップの階段を駆け上がり,残された者は人知れず去っていくことになるのかもしれない。人,生を大きく左右する「ワンチャンス」をつかむためには,まず己に能力がなければならない。「シンデレラボーイ」という言葉もあるが,そうなるためには適切な時期に,適切なポジションにいることができる能力が必要なのである。さて,3人の未来は?  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月 7日 (火)

「技術の日産」が羽ばたく日

 グローバル化が進んだ現代においても,いや,そういった現代に住んでいるからこそ,母国を大切にする気持ちが強くなるのだろうか。世界を相手に戦う日本人を見ていると,どんなスポーツでもついつい応援したくなってしまう。ワールドチャンピオンシップたるF1に携わる人々も,母国を大切にする意識は強い。とは言え日本人はそういったナショナリズムが薄いと言われる。今シーズンこそSAF1の参戦により,「日本」を意識するF1ファンも増えたと思うが,かつて日本GPの光景を見た外国人F1関係者は,日の丸よりブラジル国旗が多く振られている光景をどんな思いで見ていたのだろう。

 さて,日本の3大自動車メーカーのうち,トヨタ・ホンダはF1参戦を果たしているが,ニッサンにはF1に関する話題がほとんどなかった。自チームを率いて参戦することはもちろん,エンジン供給すら現実的な話として取り上げられてこなかった。ニッサン自体はモータースポーツに対する意識も高く,過去にスポーツカーやGTカー,ツーリングカーなど,幅広いカテゴリーに参戦や供給を行ってきた。しかし,ことフォーミュラとなると話が聞こえなくなる。数年前まではワールドシーリズ・バイ・ニッサン(現ワールドシリーズ・バイ・ルノー)もあったが,これはルノー主導で行われていたカテゴリーであり,ニッサン側が深く関わっていたわけではない。

 もしニッサンがF1参戦するとなれば,ファンならずとも大歓迎だろう。しかし,それは夢のまた夢の話である。自社で独立した企業であるトヨタやホンダとは異なり,ニッサンはルノー傘下の一企業でしかない。国内カテゴリーにワークス参戦することはできても,海外ましてやモータースポーツの最高峰であるF1に参戦するとなれば,ルノーの後押しが必要不可欠となる。仮にルノーというしがらみが無かったとしても,ニッサンがチームとしてF1に参戦することは不可能に近いだろう。先にも述べたように,ニッサンにはフォーミュラの経験がほとんどないのだ。ゼロからチームを立ち上げるには,現代F1はあまりにも資金のかかりすぎるカテゴリーになってしまった。

 現在ルノーはチャンピオンチームとしてF1界に君臨しており,傘下企業であるニッサンの入り込む余地はない。あるとすれば,ルノー・エンジンにニッサンのバッジネームを付けて名前だけ参戦するくらいである。2008年から参戦予定のプロドライブの搭載するエンジンには,この「ニッサン・エンジン」という話もある。しかし,こういった類の話は過去にも数え切れないほど聞こえてきては,実現せずに消え去っていった。かつて「技術の日産」と言われ,日本を代表する自動車メーカーだったニッサン。最も日本人的な考え方をしていたこの企業が,世界に羽ばたく日はもう来ないのだろうか。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月 6日 (月)

プライベーターの台所事情

 何か新しい物事を始めるためには,必然的にお金が必要になってくる。某生命保険会社に言われるまでもなく,お金は大事なものであり,その使い道はよく考えなければならない。収入と支出のバランスを考えながら物事を行うのは,個人であろうが企業であろうがその規模が違うだけで,考え方まで変わるわけではない。F1チームも企業である以上,当然収支バランスのとれた経営が必要になってくる。しかも彼らは活動予算のほぼ全てを,スポンサーからの資金に頼っている。従って予算は無尽蔵にあるわけでなはなく,費用対効果が確実に現れるような投資をしなければらならない。

 このほどF1チームの利益と損失がニュースとなった。ワークスチームは年間数百億円の資金をつぎ込んでいると言われるが,今回具体的な数値が示されたのは主にプライベーターの予算である。それによると,今シーズン新規参入を果たしたSAF1が9,500万ドル(約112億円),ミッドランドを買収したスパイカーが7,600万ドル(約90億円),レッドブルの兄弟チームであるトロ・ロッソが6,600万ドル(約78億円)・・・といった具合である。もちろんF1チームの収支決算は決して明らかにされることはなく,発表されたこれらの金額も全て憶測の域を出ないが,大きなズレはないものと思われる。

 これと合わせて明らかになったのが,ウィリアムズの収支決算である。2005年末での決算と思われるが,契約を残していたBMWとのエンジン供給の解除,及びジェンソン・バトンを手放したことによる違約金により,6,000万ドル(約71億円)の利益を上げたとされている。昔からウィリアムズは,「マシンには金をかけるが,ドライバーには金をかけない」ことで有名である。契約金の高騰を嫌い,デイモン・ヒルやジャック・ビルニューブなど,チャンピオンを獲得した翌年にチームを追われた者も多い。技術力に絶対の自信があるからこそ,「ドライバーの腕は関係ない」という強気のチーム運営ができたのであろう。近年はその技術力も,めっきり影を潜めてしまっているが。

 それにしてもF1チームの参戦費用には,あきれるばかりである,来シーズン新型シャシーを導入するチャンプカーシリーズは,新規参戦を増やすため新チーム向けの格安参戦パッケージを設定した。それを元にした標準的な参戦費用は,1台体制で年間約4億円。2台体制を組んでも約7.5億円と,F1チームの10分の1以下という金額である。もちろんシャシーがワンメイクであることを始めとして,F1とチャンプカーを直截比較することはできない。それでもF1は,プライベーターにとって敷居の高いカテゴリーであることには変わりない。一つ間違えば身ぐるみ剥がされてしまう魑魅魍魎の世界に,よくもまぁSAF1は参戦したものである。その情熱と行動力に,ただただ脱帽・・・。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年11月 2日 (木)

多彩な才能とスタイル

 「天は二物を与えず」というが,ある分野において優秀な人材は,他の分野でも秀でている場合が多い。多彩な才能を生かしマルチに活躍している著名人は数多く,我々を楽しませてくれている。世界で最も速いF1マシンを操るドライバーは,それだけでも大変な才能である。しかし,更に他の分野においても,才能を発揮する者は多い。今シーズン途中で現役引退した元ワールドチャンピオンのジャック・ビルニューブには音楽の才能もあり,シンガーソングライターとして地元カナダでCDデビューを果たしている。本人はあくまで趣味と謙遜するが,その領域を遙かに超えた活動だろう。

 今シーズン現役引退したもう一人のワールドチャンピオンであるミハエル・シューマッハには,映画出演のオファーが届いている。ヨーロッパで人気の「アステリックス」と言うアニメシリーズの実写版「アステリックスとオリンピック大会」に,同じく今シーズン限りでサッカー界を引退したジネディーヌ・ジダンや元イングランド代表主将のデビッド・ベッカムらと出演するという。先に「しばらく休養する」と宣言していたシューマッハだが,それはF1に関わる部分でのこと。スーパースターには引退して尚,様々な分野からオファーが舞い込む。彼の多忙が解消されることは,しばらくないようだ。

 さて,多彩な才能をもつ者はともかく,マシンを速く走らせることが仕事であるドライバーは,まずその「スタイル」を確立する必要がある,ここで言うスタイルとは,ドライビングスタイルを含め,マシンを速く走らせるためにどの部分の能力を追求していくのかということである。例えば,先に挙げたシューマッハは「ファイター」であり,常に自分の速さを誇示しながら走るその姿には,多くのファンが酔いしれた。相手を果敢にオーバーテイクした直後にピットストップを行うなど,他のドライバーではなかなかできない行為である。時には無謀とも言えるバトルを仕掛け,接触あるいは自滅してしまうこともあったが,それが彼のスタイルとしてファンには認知されてきた。

 一方ホンダのエース,ジェンソン・バトンはシューマッハとは対照的な走りをする。リスクを背負わないその走りは抜群の安定感を誇り,結果として多くのポイントをチームにもたらすことができる。反面「バトンの走りには華がない」と言われるように,「つまらない走り」と受け止められてしまうことも多い。リスクを背負わないと言うことは,観客を魅了するようなオーバーテイクも少ないことを意味する。最終戦ブラジルGPでのシューマッハとバトンの走りを思い起こせば明らかである。バトンだけではない。ジャンカルロ・フィジケラ,ルーベンス・バリチェロ,デイビッド・クルサード・・・。速くもなければ遅くもない「F1ベンチマーク」では,新鋭に足下をすくわれてしまうぞ。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年11月 1日 (水)

一匹狼たちのまとめ役

 労働者は団結する権利を有している。雇用者の不当な扱いに屈することなく,自らの地位向上と職場環境の改善のため,団結して問題に取り組むことができる。労使交渉は働く者達にとってかけがえのない財産なのである。F1ドライバーたちもGPDA(グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション)を作り,ドライバーの視点からサーキットの安全性向上を求めたり,レギュレーションに対する意見を発したりしている。現在は会長にラルフ・シューマッハ,理事にマーク・ウェバーとフェルナンド・アロンソが名を連ねている。先日もラルフが,へレスサーキットに対して医療施設の改善を要求し,安全なテストができるよう求めている。

 そのGPDA前代表であったデイビッド・クルサードが,「マックス・モズレーFIA会長に脅された」と発言している。それによると,クルサードがイタリアGP会場であるモンツァの安全基準に関して問題を指摘し,「場合によってはボイコットも辞さず」という強い考えを示したところ,モズレー会長はスーパーライセンスの没収もちらつかせながら,クルサードを牽制したという。F1ドライバーの仕事は過酷である。クルサードの言うように,水しぶきを上げて走るマシンの後ろから,全開でオー・ルージュに飛び込まなければならないときの心境など,端から見ている側に想像できるわけがない。

 一昔前に比べ現代F1マシンは,安全性が飛躍的に向上している。12年前の「悲劇のイモラ」以降,テスト・レースを通じて死者はでていない。しかし,それでも尚,時速300kmオーバーで突っ走るF1ドライバーの仕事が,安全であるわけがない。特に今年はV8エンジンの導入によってコーナーリングスピードが上昇し,鈴鹿を始め多くのサーキットでコースレコードがでている。もちろんドライバーたちもレースをしている以上,リスクを背負うことは承知の上であろう。しかし,それがサーキットの不備によって引き起こされるものならば,改善の余地はいくらでもある。だからこそクルサードは,そのリスクを少しでも減らそうと,安全性向上について強い意見を発したのだろう。

 元来GPDAは一枚岩ではない。走ることで己の速さを示すことが一番であり,安全性向上などには興味がない一匹狼も多いという。その中で意見をまとめ,外部に発信するGPDA理事たちの苦労は相当なものだろう。しかもモズレー会長は,「ドライバーが理事会に対して話すことは許されていない」と言う。であるならば,ドライバーたちは自らの意見をどこにぶつければいいと言うのだろうか。チームに対してもドライバーに対しても強硬な姿勢をとるFIAには,大きな批判が集まっている。今回のクルサードの堂々たる発言は,賞賛されるべきものだろう。問題は,一匹狼たちがどこまで動くかだが。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2006年10月 | トップページ | 2006年12月 »