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2007年10月28日 (日)

崇高なる跳ね馬の行方

 世の中に崇高なものは数限りなくあるが,レースの世界となると,それぞれの価値観によって崇高さは異なってくる。しかし「フェラーリ」という名は,世界中どの国に行っても,ある種独特の響きと世界観を感じさせてくれるものだろう。以前,旅行でイタリアを訪れた際,ミラノのとあるレストランで食事をしたことがある。F1ドライバーも訪れるというそのレストランの壁面には,歴代フェラーリF1の写真が数多くディスプレイされていた。そして,私が座った席の真横には,「カヴァッリーノ・ランパンテ」のエンブレムが,誇らしげに飾られていた。フェラーリ信者でもない私でも,思わず手を合わせてしまいたくなるような,そんな崇高さを感じた思い出がある。

 さて,キミ・ライコネンによる大逆転劇で幕を閉じた2007年シーズンだが,チャンピオンチームとなったフェラーリの来季体制は,まだ不透明な点が多い。一時はマクラーレンのフェルナンド・アロンソが移籍することも噂されたが,少なくとも2008年に関しては,ライコネン&マッサのラインアップに変更はなさそうである。スペインで行なわれたアストゥリアス皇太子賞の授与式に参加しミハエル・シューマッハも,「フェルナンドのファンをがっかりさせたくはないけど,今のところフェラーリのシートは埋まっている。マッサとライコネンは長期契約をしているから,現時点ではどうしようもない。僕たちは2人のドライバーに満足しているからね」と,アロンソのフェラーリ入りを否定している。

 そうなると問題は,誰が代表の座に就くかという点であろう。フェラーリの総帥であるルカ・ディ・モンテゼモロ/フィアット会長は,来季の体制はクリスマス前までには発表することを明らかにしたが,これが一筋縄ではいきそうにない。一時はジャン・トッド代表がダブル・タイトルを花道に一線を退き,代わって現在長期休暇中のロス・ブラウン/元テクニカル・ディレクターが代表の座に就くと目されていた。しかし,フェリペ・マッサが,2010年まで契約を延長したことで,情勢は微妙に変化している。そしてそこには,ミハエル,バーンを従えるモンテゼモロ会長と,息子でありマッサのマネージャーでもあるニコラスを擁するトッド代表との権力抗争が見え隠れする。

 元来トッド代表は,モンテゼモロ会長自身がスポーティング・ディレクターに任命した人物である。就任当初は中々結果の出なかったトッド体制であったが,ミハエル&バーンを獲得し,1999年から実に6年連続コンストラクターズ・タイトル獲得という黄金期を築き上げた。しかし,そのシューマッハが引退した現在,二人の関係は微妙に変化してきている。今後もフェラーリF1に影響力を残したいモンテゼモロ会長と,現在の立場を維持しつつ,いずれ息子のニコラス・トッド氏をフェラーリの代表に就かせたいトッド代表。「シューマッハ以降」の崇高なる跳ね馬は,その行方を決めかねている。

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2007年10月21日 (日)

決着!混迷のタイトル争い

 物事に始まりがあれば,必ず終わりも存在する。3月18日のオーストラリアGPを皮切りに,世界十数カ国を転戦してきたF1サーカスも,最終決戦の地であるブラジル・インテルラゴスで幕を閉じようとしている。今季は稀に見る混迷のタイトル争いとなったが,それも神童ルイス・ハミルトンの存在なくしては語れないだろう。10年以上に渡ってF1をリードしてきた皇帝ミハエル・シューマッハ引退後,F1界はフェルナンド・アロンソとキミ・ライコネンの時代に突入すると思われたが,ハミルトンのデビューがF1のパワーバランスを著しく変化させた。その戦いも,後数時間後に決着することとなる。

 昨日行われた公式予選では,地元で気合いの入るフェリペ・マッサが,昨年に引き続き見事PPを獲得している。ポイントリーダーのハミルトンもフロント・ロウを確保。3番手ライコネン,4番手アロンソを従え,まずは好位置を確保した。引退の危機に直面しているルノーのジャンカルロ・フィジケラと,トヨタのラルフ・シューマッハは,それぞれ12番手と15番手からのスタート。このGPが,彼らの引退レースとならないことを祈ろう。一方,このレースでウィリアムズから念願のF1デビューを果たした中嶋一貴は18番手。17番手にSAF1の佐藤琢磨,22番手にスパイカーの山本左近と,日本勢は後方から追い上げを図る。

 現地時間午後2時,いよいよ決勝レースが始まった。スタートは混乱なく,各マシン綺麗なスタートを決める。抜群のスタートを決めたライコネンが,ハミルトンをパスし2位に上がる。更に2コーナーでは,4位のアロンソがハミルトンに襲いかかり3位に浮上。ハミルトンもこれを迎撃するが,コースアウトを喫し8位に後退する。すぐに7番手に上がるものの,9周目に何とスローダウン!一気に18位まで後退してしまう。どうやらシフト関連のトラブルが断続的に起きているらしく,12周目に再びスローダウン。これでハミルトンのタイトル獲得は,非常に厳しいものになってきた。それでもハミルトンは,後方から必死の追い上げを図る。

 レースも半分を過ぎたところで,ルノーのヘイキ・コバライネンがクラッシュ,更に地元のホンダ,ルーベンス・バリチェロもエンジンブロー。バリチェロは,今シーズンノーポイントに終わる。50周目,マッサが2度目のピットストップ,この間にライコネンはスーパーアタックを連発,ピットストップでマッサを逆転し,ついにトップに躍り出る。3位にはアロンソ,ハミルトンもポイント圏内7位まで上がってくるがこれが精一杯。最終ラップ,2位にマッサを従え,ライコネンが堂々のチャンピオン・ラン。そして,そのままチェッカー!最大26ポイントという絶対不可能と思われた大逆転で,見事に初のワールドチャンピオンとなった。混戦のタイトル争いを制したのは,フェラーリの新しい皇帝であった。おめでとう!アイスマン,キミ・ライコネン!!

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2007年10月14日 (日)

戦いはこれからだ!

 「レースは人生そのものである」と言うように,チェッカーフラッグを受けるまで,何が起きても不思議ではないのがレースである。2007年のドライバーズ・タイトルは,九分九厘マクラーレンのルイス・ハミルトンが手中にしたと思われた。今季15戦を終え,リタイヤ0,表彰台獲得率80%を誇るハミルトンであれば,そう思うのも当然のことだろう。しかし,富士に引き続き上海も,雨に翻弄されたレースとなった。ハミルトンはピット入り口のグラベルにつかまり,今季初のリタイア。カーカスまでもが目視できるほど消耗していたタイヤを,なぜすぐに交換しなかったのか。ロン・デニス代表の「我々はキミとレースしていたのではなかった。基本的にフェルナンドとレースをしていたのだ」という発言が,その答えとなった。

 この結果,ドライバーズ・ポイントは,ハミルトン107,フェルナンド・アロンソ103,キミ・ライコネン100となり,最終戦では三つ巴のタイトル争いが展開される。三つ巴の最終戦となるのは,1986年のナイジェル・マンセル,アラン・プロスト,ネルソン・ピケ以来21年ぶりのこととなる。このときは,マンセルのタイヤがバーストし,プロストが逆転王者に輝いている。追われる者より追う者の方が精神的に有利な状況にあることは,歴史が証明している。三つ巴のまま最終戦までもつれ込んだことは過去に8回あるが,そのうちリードしていた者がチャンピオンになったのは,僅か3回だけである。

 最終戦の舞台ブラジル・インテルラゴスは,縁石がそれほど高くなく,フェラーリ向きのコースであると言われている。昨年は,フェリペ・マッサがPPから完璧な走りで優勝を飾っているだけに,彼が三つ巴のタイトル争いにどう絡んでくるのかも注目される。マッサは,「最終戦は勝ちに行く」と明言しているが,ライコネンにタイトル獲得の望みがある以上,何らかのサポートをしていく必要はあるだろう。もちろんその場合,マクラーレンの二人を封じることが,マッサに与えられる最大の使命となる。地元でマッサがのような走りを見せるのか。彼がタイトル争いのキーマンとなるかもしれない。

 もう一つの注目は,2年連続チャンピオンのプライドをハミルトン&デニスにズタズタにされ,怒りに震えるアロンソの去就である。もはやアロンソとチームの関係は修復不可能とされており,仮に逆転でタイトルを獲得したとしても,彼が来季もマクラーレンで走るとは考えにくい。アロンソ自身も地元スペインのメディアに「自分の移籍候補は10チーム」と語っており,マクラーレン離脱は決定事項として報道されている。もちろん,マクラーレンと3年契約を結んでいるアロンソの移籍には,莫大な違約金が必要となるため,そうすんなりコトが運ぶとないだろうが・・・。最終戦を前に,混迷を極めるタイトル争いと移籍市場。今季最後ににして最大の戦いが,幕を開けようとしている。

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2007年10月 7日 (日)

神童が成し遂げる偉業

 歴史的な瞬間というものは,意外にあっけなく訪れるのかもしれない。今シーズン,ルーキーながらタイトル争いをリードしてきたマクラーレンのルイス・ハミルトン。彼が50年以上に渡るF1の歴史を塗り替え,数時間後には初の「ルーキー・チャンピオン」となるかもしれない。ハミルトンに関しては今週,日本GPのSCラン中に極端なスピードコントロールを繰り返したとして,25秒加算のペナルティが議論されていたが,結局この件はFIAにより「お咎め無し」の判決が下った。更に心配されていた台風15号も,東よりに進路を変えたことで,中国GPは無事スタートが切られるようである。危うく歴史的な瞬間が,戦わずして訪れるところであった。

 ファン-マニュエル・ファンジオ,スターリング・モス,ジム・クラーク,ジャッキー・スチュワート,アイルトン・セナ,ミハエル・シューマッハ・・・。歴史に名を刻んできた伝説的なドライバーでさえ,ルーキーシーズンからこれほどの活躍をした者はいなかった。もちろんハミルトンが10年以上に渡ってマクラーレンからバックアップを受け,下位カテゴリーで十分な成績を残し,準備万端の上でF1デビューを果たしていること。そして,今季グリッドに並んでいるマシンの中で,最も戦闘力のあるMP4-22を駆っていることも忘れてはならない。しかし,それを考慮しても余りある彼の才能は,もはや疑いようのない事実である。

 今季,まるで10年もF1ドライバーを務めていたような,円熟したドライビング・スキルを披露してきたハミルトンだが,彼が優れているのはそれだけではない。チーム・スタッフやゲスト,彼を応援するファンにまで,細かな心配りをすることのできる人柄である。それを表すエピソードが,日本GPの最中にあったという。土曜日,天候不良のためヘリコプターが飛べず,マクラーレンのゲストは東京からバスで富士に向かうハメになった。それを聞いたハミルトンは彼らを退屈させまいと,携帯電話からバスのスタッフに電話をかけ,彼のメッセージをバスのスピーカーから流すように頼んだという。こんな気配りを,普通22歳の若者ができるだろうか?

 もちろんハミルトンが,品行方正な優等生と決めつけるつもりはない。ハンガリーGPの予選で,チームの指示を5度に渡って無視し続け,挙げ句の果てにロン・デニス代表に暴言を吐いたこと。スタート直後やレース中に後続に対して見せる,執拗なまでのブロック。そして今回物議を醸した,SCラン中の急減速・・・。それらを見ればハミルトンが,普段の穏やかな人柄からは想像もできない,闘争心をむき出しの本性を内面に併せ持っていることは明らかである。しかしそれは,人間であれば多かれ少なかれ誰もが持つ二面性である。「神童」ハミルトンも「神様」ではなく,一人の「人間」なのだ。彼が成し遂げるであろう偉業を,今日は見守ることにしよう。

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