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2007年11月25日 (日)

鈴木亜久里の「冒険」

 「冒険」と「探検」の違いをご存じだろうか。一般的に「冒険」とは「危険な状態になることを承知の上で,あえて行うこと」であり,「探検」は「未知の地域に入り,実際に調べること」であるという。つまり,この二つの言葉の違いは,「命の危険があるかないか」ということになるだろう。先月,SAF1の誕生から現在に至るまでがまとめられた「鈴木亜久里の冒険」という本が出版された。不可能と言われた128日でのF1参戦を実現し,今季2年目のシーズンを戦い終えた鈴木亜久里代表とSAF1。その過程は,まさに命を賭けた「冒険」そのものであったことを,本書は記している。

 この本の著者は,ベテラン・モータースポーツジャーナリストで,SAF1のHPでは各GPごとにインサイド・レースレポートを執筆する赤井邦彦氏。チームを最も近くから見守り続けてきたジャーナリストとして,今まで明らかにされていなかったSAF1の舞台裏をが克明に記している。当初亜久里代表が,ホンダの共同オーナーとしてF1参戦を考えていたこと。ディレクシブが,亜久里代表のB.A.R株式買収を支援する予定であったこと。今まで謎とされていた4800万ドル(約58億円)もの供託金の出資者が,あおぞら銀行であったこと。冒頭から今まで謎とされてたことが次々と明らかにされ,読む者を惹きつけて止まない。秋の夜長にぴったりの,インサイドストーリーとなっている。

 さて,そのSAF1だが,総勢150名のスタッフのうち30名ほどが人員削減されたとの報道がされたように,残念ながらチームの状況は芳しくないようだ。SSユナイテッドの債務不履行があった後,チームはマシン開発を凍結し何とか今季を乗り切った。しかし,来季に向け更なる資金を調達しなければ,再びチーム売却の恐れも出てくる。最大のネックとなっているのが,カスタマーシャシー問題の結論が依然として出ていないことである。亜久里代表は,「決めるのはFIAとFOMだが,すでに落とし所は見えていると思う」との見解を示しているものの,この状況に新規スポンサーが二の足を踏んでいることは明らかだろう。

 一方,来季のドライバーラインアップも依然として発表がない。先日ツインリンクもてぎで「Enjoy Honda ホンダ・レーシング・サンクス・デー」に参加した佐藤琢磨は,「いくつかのチームと交渉をしているが,SAF1がボクの期待するポテンシャルを出してくれれば,来年も同じチームで闘いたい」と,SAF1残留が基本線であることを示している。しかし,「ボク自身が納得できるパッケージが揃っていないので,最終合意には達していない」とも語っているとおり,チームが来季を戦えるだけの体制を整えられなければ,状況は大きく変わってしまうだろう。チーム,スポンサー,マシン,ドライバー・・・。鈴木亜久里の「冒険」は,まだまだ続く・・・。

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2007年11月18日 (日)

「国内最高峰」の変革

 「終わりよければすべてよし」という言葉があるように,どの様な過程があろうとも,最終的にスッキリする形で物事が終われば,嫌な思いをする人間も少ない。しかし,それまでどんなに素晴らしい戦いが展開されようとも,最後の最後でトラブルが起きてしまえば,「後味の悪さ」だけが残ることとなる。ブラジルGPでの「燃料温度問題」に対し,国際控訴裁判所がマクラーレンの控訴を却下したことで,キミ・ライコネンのチャンピオンがようやく確定したが,もしこの控訴が認められルイス・ハミルトンが逆転チャンピオンになろうものなら,今季数々のスキャンダルに見舞われたF1のイメージは,取り返しのつかないほど凋落したことだろう。

 日本でも今日,鈴鹿サーキットを舞台に,もうひとつのチャンピオン決定戦が行われた。「国内最高峰」フォーミュラ・ニッポンのタイトル決定戦である。そしてここにも,後味の悪さが残る結末が待ち受けていた。インパルのブノア・トレルイエと松田次生,ナカジマ・レーシングの小暮卓史による三つ巴の戦いは,小暮が優勝を飾り大逆転のチャンピオンを決めたかに思えた。しかし,レース終了から2時間後,マシンのスキッドブロック違反により小暮に失格の判定が下った。これにより,4位に繰り上がった松田がリタイアに終わったトレルイエを上回り,1点差で再逆転のチャンピオンとなったのだ。

 どのような形であれ違反は違反。そこに感情が入る余地はない。しかし,今まで繰り広げられてきた白熱の戦いが,僅か数ミリの狂いにより決まってしまったことには,小暮本人はもちろん多くの関係者やファンも失望していることだろう。小暮は今月20日に,今季インディ・プロシリーズを戦った武藤英紀と共に,SAF1でのF1初走行を控えていた。武藤が来季IRLにアンドレッティ・グリーン・レーシングからフル参戦するのに対し,小暮の来季に関してはまだ何の発表もない。小暮としてもF-NIPPONのチャンピオンを手土産に,F1へのステップアップを目指したかったに違いない。しかしそれも今となっては,叶わぬ夢となってしまうのだろうか。

 チャンピオンがF1へとステップアップ出来ない状況が続いているF-NIPPONは,一体これからどの様な道を歩むことになるのだろうか。F-NIPPONの統括団体であるJRPは,2009年から現行のローラFN06に変わりスウィフト・シャシーと新エンジンの導入を決定。「日本独自のトップカテゴリーとして地位を確立し,アジア・パシフィック地域を代表するレースを構築する」としている。GP2がF1へのステップアップカテゴリーとして不動の地位を築いている今,F-NIPPONは独自路線を歩むことを決断したのである。エイドリアン・スーティル,中嶋一貴ら全日本F3出身者が次々とF1へとステップアップしていく中,「国内最高峰」のF-NIPPONにも大きな変革が迫っている。

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2007年11月11日 (日)

TDP三銃士三様の1年

 1年という時間を長いと考えるか短いと考えるかは,その人の捉え方しだいである。しかし,1000分の1秒を争うモータースポーツの世界に於いて,1年という時間は人生を大きく左右させるのに十分な時間である。ちょうど1年前,未来のF1ドライバーを目指し,共に激戦のユーロF3を戦った3人の若者がいた。ユーロ初参戦での光る走りが認められ,名門ウィリアムズのテストドライバーに抜擢された中嶋一貴。2年目のユーロを3位で終え,GP2へのステップアップを果たした平手晃平。フォーミュラ・ルノーのタイトルを手土産にユーロに参戦し,マカオGPではPPも獲得した小林可夢偉。それぞれが着実に結果を残し,次なる目標に向け羽ばたき始めた時であった。

 あれから1年。3人を取り巻く状況は,大きく変わり始めている。まず,何と言っても最大の成功者は,来季からウィリアムズのでF1フル参戦を果たす一貴であろう。今季の一貴はDAMSからGP2に参戦し,ルーキー最上位のランキング5位という結果を残した。当初は来季もGP2に参戦し,今季果たせなかった勝利とタイトルを狙うものと思われていたが,事実上の「テスト参戦」となった最終戦ブラジルGPでの走りが認められ,ついに念願のレギュラーシートを獲得した。GP2未勝利の一貴に対し,「レギュラードライバーになるには経験が足りない」との声もあるが,そこは適応力の高い一貴のこと。きっと来季は,我々を驚かせてくれる活躍をしてくれることだろう。

 一貴が夢への階段を一気に駆け上がったのに対し,不本意な形でヨーロッパを後にしたのが晃平である。トライデントからGP2に参戦した晃平だったが,わずか9ポイントのランキング19位でシーズンを終えた。不振の原因は,チームスタッフとのコミュニケーション不足。と言っても,これは晃平だけの責任ではなく,彼の言うことを聞こうとしなかったチームにも問題がありそうだ。もちろん,与えられた環境で最大限の成果を発揮しなければ,次へのステップに繋がらないのだが,せめてあと1年チャンスが与えられなかったのかとも思う。ただ,晃平はまだ21歳と若い。次なるステップに向け,来季は日本での復活を期待したい。

 最後は2年目となるユーロF3で,タイトル獲得を狙った可夢偉。しかしその可夢偉も,今季は不完全燃焼の1年となってしまった。マニクールで待望のユーロF3初優勝を挙げたものの,トラブルやアクシデントで結果に結びつかないレースが幾度となく続き,最終的にランキングは4位。それでも来季はGP2への参戦が確実とされており,既にARTやDAMSでテストも行っている。順当に行けば,トヨタのテストドライバーも務めるはずであり,「トヨタの秘蔵っ子」とも言われる可夢偉の未来は明るい。今季の彼に残された仕事は,マカオGPでF3の総決算をすることである。TDP三銃士にとっては三者三様の1年だったが,来年の今頃はまた違った人生が見られるのだろう。

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2007年11月 4日 (日)

アロンソよ,何処へ行く・・・。

 職場に於いて,最も重要なことは一体どのようなことだろう。職務に対する専門知識,上司やクライアントを満足させる成果,時間と費用に対する効率のよさ,スムーズに仕事を進めるための環境・・・。そのどれもが,重要であるには違いない。しかし,最も忘れてはならないのが「全ては人間が行っていること」という点である。つまり職場に於いて最も重要なことは,仕事を気持ちよく進めることができる人間関係が構築できているかという点である。いくら環境が優れていても,そこで働く者同士が信頼関係で結ばれていなければ,成果が上がることなどない。

 先日,フェルナンド・アロンソがマクラーレンを離脱するというニュースが,全世界を駆けめぐった。今季,ダブル・チャンピオンの肩書きをひっさげ,意気揚々とマクラーレンに移籍したアロンソであったが,当の本人もまさか1年で離脱することになろうとは,夢にも思わなかったことだろう。もちろん,ルイス・ハミルトンという強烈な存在がなければ,このような事態は起こらなかったのかもしれない。しかし,ハミルトンがデビューイヤーからアロンソを脅かす存在になることなど,誰一人として予想していなかったのだろうから,彼を責めることなどできない。

 あえて理由を挙げるとするならば,マクラーレンという職場の雰囲気が,アロンソには合わなかったということなのだろう。スペイン人らしく,ラテン気質で言いたいことははっきり言うアロンソにとって,マクラーレンは少々窮屈だったのかもしれない。移籍当初こそ優等生発言をしていたアロンソだが,シーズンが進むにつれチーム内での居心地は悪くなっていった。イギリスチームの中で,イギリス人スタッフに囲まれ,イギリス人のチームメイトを持ったことで,「自分は孤立している」と,最後は半ば疑心暗鬼になっていたようにも思える。それほどアロンソは,追いつめられた状況にあったのだろう。

 何はともあれ,アロンソがマクラーレンを離れることは決定事項である。そしてアロンソは,彼を招き入れてくれる家を探さなくてはならないのだが,これが簡単なことではない。今季は惜しくもランキング3位に甘んじたとは言え,現役最多19勝を数える2度の王者を満足させるだけの戦闘力を有し,かつ高額な年俸を支払えるチームとなると限られてくる。これをクリアできそうなフェラーリやBMWザウバーは,既に来季のドライバーを確定している。古巣ルノーは歓迎の意向を示しているが,契約年数で揉めている。となると,豊富な資金力を誇るトヨタやレッド・ブルという可能性もあるが,こちらはお世辞にも優勝を狙えるチームとは言えない。さてさて,アロンソよ,何処へ行く・・・。

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