2007年10月 7日 (日)

神童が成し遂げる偉業

 歴史的な瞬間というものは,意外にあっけなく訪れるのかもしれない。今シーズン,ルーキーながらタイトル争いをリードしてきたマクラーレンのルイス・ハミルトン。彼が50年以上に渡るF1の歴史を塗り替え,数時間後には初の「ルーキー・チャンピオン」となるかもしれない。ハミルトンに関しては今週,日本GPのSCラン中に極端なスピードコントロールを繰り返したとして,25秒加算のペナルティが議論されていたが,結局この件はFIAにより「お咎め無し」の判決が下った。更に心配されていた台風15号も,東よりに進路を変えたことで,中国GPは無事スタートが切られるようである。危うく歴史的な瞬間が,戦わずして訪れるところであった。

 ファン-マニュエル・ファンジオ,スターリング・モス,ジム・クラーク,ジャッキー・スチュワート,アイルトン・セナ,ミハエル・シューマッハ・・・。歴史に名を刻んできた伝説的なドライバーでさえ,ルーキーシーズンからこれほどの活躍をした者はいなかった。もちろんハミルトンが10年以上に渡ってマクラーレンからバックアップを受け,下位カテゴリーで十分な成績を残し,準備万端の上でF1デビューを果たしていること。そして,今季グリッドに並んでいるマシンの中で,最も戦闘力のあるMP4-22を駆っていることも忘れてはならない。しかし,それを考慮しても余りある彼の才能は,もはや疑いようのない事実である。

 今季,まるで10年もF1ドライバーを務めていたような,円熟したドライビング・スキルを披露してきたハミルトンだが,彼が優れているのはそれだけではない。チーム・スタッフやゲスト,彼を応援するファンにまで,細かな心配りをすることのできる人柄である。それを表すエピソードが,日本GPの最中にあったという。土曜日,天候不良のためヘリコプターが飛べず,マクラーレンのゲストは東京からバスで富士に向かうハメになった。それを聞いたハミルトンは彼らを退屈させまいと,携帯電話からバスのスタッフに電話をかけ,彼のメッセージをバスのスピーカーから流すように頼んだという。こんな気配りを,普通22歳の若者ができるだろうか?

 もちろんハミルトンが,品行方正な優等生と決めつけるつもりはない。ハンガリーGPの予選で,チームの指示を5度に渡って無視し続け,挙げ句の果てにロン・デニス代表に暴言を吐いたこと。スタート直後やレース中に後続に対して見せる,執拗なまでのブロック。そして今回物議を醸した,SCラン中の急減速・・・。それらを見ればハミルトンが,普段の穏やかな人柄からは想像もできない,闘争心をむき出しの本性を内面に併せ持っていることは明らかである。しかしそれは,人間であれば多かれ少なかれ誰もが持つ二面性である。「神童」ハミルトンも「神様」ではなく,一人の「人間」なのだ。彼が成し遂げるであろう偉業を,今日は見守ることにしよう。

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2007年9月16日 (日)

”シロ”が”クロ”に変わるとき

 本当に信じられるものとは,一体この世の中に幾つあるのだろう。長い間”シロ”と思われていたものが,一瞬にして”クロ”に変わってしまうことも,またその逆が起こることも,F1の世界では日常茶飯事である。今週水曜日,今季のF1界最大のスキャンダルと言ってもいい,マクラーレンに対するのスパイ疑惑の判決が,FIA世界モータースポーツ評議会より発表された。その判決内容は,マクラーレンのコンストラクターズ・ポイントを剥奪。更に,1億ドル(約115億円)という巨額の罰金を科すというもの。一度はFIAにより”シロ”の判決を言い渡されていたマクラーレンであったが,急転直下,今度は”クロ”の烙印を押されてしまったのだ。

 コトの発端となったのは,以前「ステップニー・ゲートの結末」にも書いた,フェラーリのナイジェル・ステップニーと,マクラーレンのマイク・コフランによるスパイ疑惑である。今回争点となったのは,フェラーリの機密事項をマクラーレンがどの程度「組織的に」把握していたかであった。前回,7月26日の公聴会に提出された証拠からは,ステップニーとコフランが僅かな接触を試みていたことしか認められなかったため,判決は”シロ”だった。しかし今回は,「コフランの所有していた大量の情報は組織的な方法で受け取ったものであり,チーム内である程度共有され,マクラーレンは彼から競技上のアドバンテージを与えられた」と,裁定文の中で示している。

 マクラーレンがFIAの定めるスポーティング・コードに違反し,不当にフェラーリの技術情報を入手していたのは,紛れもない事実であろう。しかし,それによりマクラーレンが,ライバルチームに対してどれほどのアドバンテージを得ていたのかというと,大いに疑問が残る。ましてやその情報が,彼らのマシンMP4-22に流用された証拠があるわけでもないだろう。ライバルチームの情報を不当に「所持」しているだけで”クロ”となるのであれば,今季始めにスパイカーがレッドブルの設計図を入手していた件はどうなるのであろう。結局彼らには,何のお咎めもなかったのだが・・・。

 FIAが「フェラーリ贔屓」や「ダブル・スタンダード」と非難されるのは,今更始まったことではない。ポール・ストゥダートが「FIAって何の略語だと思う?フェラーリ国際協力機構(Ferrari International Assistance)なんだ」と冗談を言うように,今でも散々フェラーリ有利の判定を下してきた。今回の判決も,フェラーリが絡んでいたから大事になったのであって,下位チームが同じような違反を犯したところで,これほど厳しい裁定を下されることもなかったであろう。唯一の救いは,アロンソ&ハミルトンのドライバーズ・ポイントが剥奪されず,彼らの真剣勝負が政治の犠牲にならなかったこと。その”シロ”が,また”クロ”に変わらないことを祈ろう。 

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2007年8月 5日 (日)

「子どもたち」の教育は・・・

 「子どものケンカに親が口を出すな」と言われるように,本来子ども同士の諍いは,子ども達だけで解決すべきであり,またそうしてきた過去がある。子どもには子どもなりの世界観と価値観があり,それに対しやたらと親が介入すべきではないと考えられてきたからであろう。しかし現代は,子どものケンカに親が口を出すことなど,日常的に行われていることである。自己中心的な人間が増えた現代社会では,子どもの教育もい古からの言い伝え通りにはいかないようだ。だが,これはどうやら身近な世界だけの話ではないらしい。F1界に於いても,「子どもたち」の教育は大変なようだ。

 F1第11戦ハンガリーGP予選,熾烈なタイムアタックが繰り広げられるQ3の終了直前に,「子どもたち」による事件は起こった。最後のアタックに備え,ピットインしていたマクラーレンのフェルナンド・アロンソが,ロリポップが上がったにもかかわらず,暫くスタートしなかったのだ。これだけならさして問題もないのだが,彼の後ろには順番待ちをするチームメイト,ルイス・ハミルトンのマシンがあった。わずか10秒弱のロスではあったが,この「駐車」により,ハミルトンの最終アタック前にQ3終了のチェッカーが出てしまう。一方のアロンソは,きっちりとPPを獲得。両者明暗が分かれた。

 実はQ3序盤,チームからハミルトンに対し「燃料を多く搭載しているアロンソを先行させるように」と無線指示が出ていた。しかし彼は,フェラーリのキミ・ライコネンが近づいていることを理由にこれを拒否したという。それに対し,今度はアロンソが意図的にピットアウトを遅らせる・・・。それは,予選終了後にデニス代表がアロンソの個人トレーナーであるファブリツィオ・ボッラを捕まえる姿が,国際映像に映し出されたことからも推測できた。チームからの指示を無視し続けたハミルトンも問題だが,それに対して報復措置をとったアロンソは論外。デニス代表が激昂するのも無理ないだろう。

 予選終了後,レーススチュワードに呼ばれたデニス代表と両ドライバーは,一部始終をスチュワードに報告している。その中でアロンソは,ロリポップが上がってからすぐにスタートしなかったことについて,「マシンに正しいタイヤが装着されているかどうかを確認していたから」。さらに,なぜそれを20秒の停車時間中に行わなかったのかについては,「カウントダウンが始まっていたので,無線で通信することは不可能だった」とのこと。結局アロンソにはグリッド5番降格のペナルティが科せられ,PPはハミルトンの手に戻ったが,これで両者に新たな火種ができてしまったことだけは間違いないだろう。血の気が多い兄と,優等生だが策士の弟。完璧主義の父親としては,やんちゃな子どもたちの躾も楽ではない・・・。

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2007年7月15日 (日)

ステップニー・ゲートの結末

 台風の日は,集中して物事に打ち込むことができる。どうせ外に出たところで,ずぶ濡れになるだけなのだから,家でおとなしく何かに打ち込んでいた方がいい。現在日本列島は,台風4号により猛烈な雨風にさらされているが,F1界に於いてもここ数週間,チャンピオンシップを根底から覆しかねない大騒動が起こっている。事と次第によっては,現在選手権をリードする,ルイス・ハミルトンとフェルナンド・アロンソのポイント剥奪にまで発展しかねない。元フェラーリのナイジェル・ステップニーと,マクラーレンのマイク・コフランを中心とするスパイ事件,「ステップニー・ゲート」である。

 事の発端は,1ヶ月ほど前,フェラーリがステップニーを「レースカーへの破壊工作」で提訴したことに始まる。ステップニーは今年初め,レース&テスト・テクニカル・マネージャーからファクトリー勤務に降格されたことに不満を抱いており,チームとの関係が悪化していた。それに対する報復かとみられていたが,事はこれだけでは収まらなかった。ステップニーはマシン設計図を含む多くの機密文書を,何とライバルチームであるマクラーレンのチーフ・デザイナー,マイク・コフランに横流ししていたというのだ。更にふたりは,この機密文書を手土産にホンダへに移籍を目論んでいたという。

 スパイ事件というと,2002年に起こった「トヨタ事件」が有名だが,今回はそれ以上に複雑かつ不可解な事件であると言わざるを得ない。まず第1に,ステップニーが危険を冒してまで,機密文書を持ち出す理由がわからない。ホンダへの移籍を画策していた彼は,フェラーリF2007の技術設計図だけでなく,作業過程,チーム戦略,予算,組織の内部構造などに関する情報が,再就職に有益であると考えたのかもしれない。しかし,ライバルチームの上級エンジニアふたりによる,手土産持参の怪しげな求職に,ホンダが応じるとでも思ったのだろうか。事実,ホンダのニック・フライ代表は,ふたりとの接触は認めたものの,結局不採用の決断をしている。

 第2の疑問は,ステップニーとコフランの機密文書に対する取り扱いである。ステップニーは不正入手した文書を,自宅に残したまま家族旅行に出かけているし,コフランはステップニーから得た機密文書を,テクニカル・ディレクターのジョナサン・ニールをはじめをするマクラーレンのスタッフ数人に見せているという。しかもコフランは,780ページにも及ぶ文書を,あろう事か彼の妻に印刷屋でコピーさせるという,機密文書を扱うには極めてお粗末な行為としている。本当に機密文書を手土産にホンダに移籍するのであれば,そんなずさんな取り扱いをするだろうか。解決にはまだまだ長い時間がかかりそうな,「ステップニー・ゲート」。我々は結末を見守るしかない。

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2007年6月24日 (日)

黄金時代の到来近し

 「今年の夏は去年より暑い!」最近,そんな言葉をよく耳にする。確かに空梅雨でたいした雨も降らず,毎日30度近くまで気温が上がる異常気象には,正直げんなりしてしまう。そんな異常な状態は,何も地球の気候だけではない。2007年のF1サーカスは,北米ラウンドを終え,来週からはいよいよ夏のヨーロッパラウンドが始まるが,そこにポイントリーダーとして戻ってきたのは,2年連続チャンピオンのフェルナンド・アロンソでも,皇帝ミハエル・シューマッハの後継者と目された,キミ・ライコネンでもなかった。弱冠22歳,デビューして僅か7戦目のスーパールーキー,ルイス・ハミルトンである。誰がこんな異常な事態を予想しただろうか。

 第5戦モナコGPまで,デビューから2位4回,3位1回と,表彰台到達率は実に100%。これだけでも歴史的な快挙であるのだが,ハミルトンの快進撃は北米の2連勝で更に加速した。初優勝の舞台となったカナダGPは,度重なるアクシデントにより4度もペースカーの入る荒れた展開となったため,ハミルトンの初優勝を「運が良かっただけ」と見る向きもあった。しかし,先週行われたアメリカGPでも,ハミルトンはチームメイトのアロンソを含むライバル全てを完璧に抑え,見事連勝を飾っている。これには王者も「僕にできたことは彼にできる限りついていくことだった」と,完全な力負けであることを認めている。

 この若者の独走を止めるのは,果たして誰なのだろうか。本来は「アロンソとライコネン,そしてマッサによる三つ巴の戦いに,ハミルトンやハイドフェルドが絡んでくる」という図式が今シーズンの一般的な予想だったはずである。しかし,ハミルトンの勢いが予想を遙かに上回るものであった上に,ライバルのフェラーリ勢はここに来て序盤戦の速さを失いつつある。そうなると唯一の可能性はアロンソなのだが,こちらも今ひとつ波に乗れないでいる。「確かに僕はいま強力なチームメイトにポイントで先行を許しているけれど,これまではハミルトンのほうがちょっと運に恵まれていただけ」というアロンソの発言は,裏を返せばそれだけ追いつめられていることを表している。

 今までシューマッハを追いかける立場だったアロンソは,今季初めて自身が追いかけられる立場に立たされている。しかもそれが,自分と同じマシンを駆るルーキーというから,余計に焦りもあるだろう。もちろん選手権はまだ半分も進んでいないのだから,これからはアロンソに流れが傾くことも十分考えられる。「タイトル獲得のためには実力だけでなく多少の幸運も必要なんだ。これから誰に女神が微笑むのか……だよ」と言うアロンソだが,こればっかりは予想が難しい。何はともあれ,マクラーレンが再び黄金時代を築きつつあることだけは確かだろう。でも,かつての「セナ・プロ」時代のような,チームメイト同士の接触だけは見たくないなぁ。

 

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2007年3月 7日 (水)

理想の上司と呼べるのは

 上司によって,職場の雰囲気はずいぶん変わる。冷徹に人を支配するだけの人間がトップにいた場合,その職場に規律は生まれるだろうが,同時に部下にのしかかるプレッシャーも大きくなる。部下にとって理想の上司は,自分たちの思いをくみ取り,自由に実践させてくれる人物だろう。それは時として失敗に繋がることもあるのだろうが,進化に失敗はつきものである。トライ&エラーを繰り返すことにより,人も物も進化をし続けるのである。自由闊達に仕事ができるような組織づくりをした,ホンダの中本修平/シニアテクニカルディレクターなどは,エンジニアにとって理想の上司と呼べるのではないだろうか。

 さて,その逆に管理で真っ先に思い浮かぶ上司と言えば,マクラーレンのロン・デニス代表だろう。誤解してほしくはないが,デニス代表は決して無能な上司ではない。彼は弱小コンストラクターであったマクラーレンを,一代で大企業に育て上げた有能な経営者である。しかし,そんなデニス代表もキミ・ライコネンにとっては,理想の上司ではなかった。以前ライコネンはデニス代表を「支配マニア」と皮肉ったが,やんちゃなライコネンにすれば,そう感じてしまうのも当然のことだろう。これに対し,当のデニス代表は,「私が支配マニアだと聞いて笑顔になったよ。だってほんとうにそうなんだから」と,発言の詳細をさして気にする様子もない。

 確かにデニス代表は,細かいことにこだわる人間であり,何より規律を重んじる経営方針で有名である。「冷たい」「ユーザー・フレンドリーでない」「ややお高くとまっている」・・・。これはF1ファンが感じている,マクラーレンのマイナスイメージであるという。確かにマクラーレンには,「ファクトリーやピットには塵一つなく,整然と並べられたパーツの中でスタッフが仕事をしている」と言うような無機的なイメージがある。もちろんこれはイメージであり何の根拠もないのだが,多くのファンがマクラーレンに「人間らしさ」を感じていないということは,紛れもない事実である。

 デニス代表の常に完璧を目指す姿勢は,弱小チームを通算148勝,コンストラクターズタイトル8回という,トップチームに進化させた。彼の勝利に対する執着心も半端ではなく,「マクラーレンで優勝したドライバーのトロフィーはチームのものとなり,ドライバーにはレプリカが渡される」という話も聞いたこともある。それだけに,昨年ついに1勝も挙げられなかったことは,彼にとってショックな出来事だったのであろう。だからこそ今季は,ドライバー&スポンサーを一新し,新たなマクラーレンとして再出発を図ろうとしているのである。デニス代表が,フェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンにとって理想の上司と呼べるのかどうかは,今しばらく様子を見る必要があるだろうが・・・。

参照リンク:FMotersports.nifty F1通信

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2007年2月22日 (木)

狸と狐の新たな噂

 狸と狐は,人や物に化けることができる「変化の術」を使うと,日本民話の世界では言われている。狸と狐に関するエピソードは非常に多く,それぞれが異なる性格の動物として描かれている。魑魅魍魎が棲むF1界にも,もちろん狸と狐は暮らしている。長くF1界に住み続けている古狸,マクラーレンのロン・デニス代表と,F1界と外界を行ったり来たりしている狐,プロドライブのデイビッド・リチャーズ代表である。お互い腹の内を見せることのないこの二人に関する話題は,以前「狐と狸の化かし合い」で書いたが,今回はこの狸と狐が新しい動きを始めたようである。

 まず,デニス代表に関しては,「プロドライブを買収するのではないか」という噂が出ている。周知の通りプロドライブは,2008年からのF1参戦に向け準備を進めている。プロドライブは来季からカスタマー・シャシー制が始まる事を前提として,マクラーレンとメルセデスからシャシーとエンジンの供給を受けるものとされている。しかし将来的には,このチームをデニス代表が買い取り,マクラーレンからは手を引くのではないかというものである。この噂の背景として,マクラーレンの株式はダイムラー・クライスラーと,バーレーン政府の持株会社であるムムタラカトがその大半を占めており,デニス代表が「マクラーレンへの関心を失いつつある」と報じている。

 一方リチャーズ代表には,「アストン・マーチンを買収するのではないか」という噂がある。世界的に有名なスポーツカー・ブランドであるアストン・マーチンは,現在フォードの支配下にあるが,これをフォードが競売にかけている。その競売に,リチャーズ代表が投資家と組んで入札しようと言うのである。元々プロドライブとアストン・マーチンとは深いつながりがあり,スポーツカー・カテゴリーで速さを発揮している「DBR9」の製作を請け負っている。しかし,この競売入札価格は9億ドル(約1100億円!!)とも言われており,これほどの巨額の買収となれば,プロドライブだけでどうこうできる規模ではない。以前噂になった「F1参戦権の売却」も,これと結びつけられるだろう。

 プロドライブが何のためにF1参戦を目論んでいるのか,その意図が今ひとつ掴みきれなかったが,今回の噂はこれを解決してくれるかもしれない。もちろん二つの話はあくまで噂であり,真相はまた別のところにあるのかもしれない。しかし,「火のない所に煙は立たない」と言われるように,マクラーレン,プロドライブ,アストン・マーチンの間に,何らかの動きがあることだけは確かなことであろう。リチャーズ代表とデニス代表の決定的な違いは,F1を「より大きな利益を生み出すビジネス」とだけ見ているか,そうでないかの差である。果たしてどう転ぶのか,色々と興味のある噂である。

参照リンク:@nifty F1通信

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2006年11月26日 (日)

大きな果実を得る日まで

 「石橋を叩いて渡る」と言う諺があるが,あまりに慎重すぎるのも考えものである。物事を保守的な考え方で進めれば,大失敗をしでかすこともないだろうが,大成功を収めることもできない。かといって革新的な考え方だけで推し進めれば,やがてほころびが生まれてきてしまう。最も大切なことは,「どこで攻め,どこで守るか」ということになる。数あるF1チームの中でも,比較的保守的なチームの一つにマクラーレンが挙げられる。ドライバーの人選やマシン作り,チーム戦略に至るまで,彼らは決して冒険をしない。エイドリアン・ニューウェイがデザインしていた近年のMP4シリーズこそ,多少の挑戦があったかもしれないが,そでとて奇をてらったものではない。

 そのマクラーレンが,来シーズンは大きな冒険をすることになる。シーズン中から何度も噂になっていたルイス・ハミルトンを,2007年からレギュラー・ドライバーとして起用することを正式に発表したのだ。一時期は後半戦を走ったペドロ・デ・ラ・ロサを継続起用し,ハミルトンには1年間みっちりと経験を積ませ,その上で2008年からデビューさせるのではないかという噂もあった。これは従来の「マクラーレン哲学」を信じる者からすれば,至極当然のことである。しかし,ロン・デニス代表はそれを行わず,ルーキーをデビューさせるという十数年ぶりの「大英断」を下したのだ。

 以前「将来有望な若手たち」でも述べたが,ドライバー人選も堅いマクラーレンが,F1経験のない新人をフル参戦させたことは過去に2回しかない。それほど保守的だったマクラーレンが新人を起用するのだから,デニス代表がハミルトンにかける期待も大きい。カート時代からまさに手塩にかけて育ててきたハミルトンを,「速さと驚異的な精神力があり,未来のチャンピオンとなる器を備えている」と評している。しかし,ユーロF3,GP2と立て続けにチャンピオンを獲得してきたハミルトンでも,F1は全く別物である。まずはオフテストで十分に走り込むことが,デビューに向けての第一歩となるだろう。

 さて,「チャンピオン・タッグ」をレギュラーシートに据えたマクラーレンは,来シーズンをどのように戦うつもりなのだろうか。いくらドライバーが強力とはいえ,1年目から快進撃ができるほどF1は甘い世界ではない。マクラーレンにはエンジニアリング部門の問題が山積しており,まずはチームの基礎体力を上げることが求められる。それに加え,最近妙に動きの忙しいミカ・ハッキネンも気になる。年齢的にもテストドライバーになることはないだろうが,ミハエル・シューマッハ同様,チームのアドバイザーに就任する可能性は十分にあるだろう。来シーズンはハミルトンという種をまき,ハッキネンの力を借りて育て上げる・・・。大きな果実を得るまでは,今しばらくの時間が必要だろう。

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2006年11月15日 (水)

「勝ち組」マクラーレン?

 一昔前「勝ち組・負け組」という言葉が盛んに使われていた。そもそも生き方に勝ち負けはないものだと思うのだが,この言葉は格差社会を端的に反映した言葉としても大きく取り上げられていた。この世に競争がある限り,皆が平等な社会など実現できるわけがない。かと言って無理に競争をなくしてしまえば「悪平等」な社会が生まれ,人々から輝きが失われることもまた事実である。さて,前置きが長くなったが,F1を始とするモータースポーツも,歴然とした格差社会である。持つべきモノを持つ者は,高いレベルでの競争に参加することができるが,そうでない者は,「勝ち組」のおこぼれに与るしかない。まさに弱肉強食の世界である。

 この弱肉強食の世界で長らく王座に君臨してきたマクラーレンの親会社である,マクラーレン・グループの経済状況が明らかになった。それによると,2003年度に2億9700万ドル(約348億円)だった総売上が,2005年度には4億2200万ドル(約494億円)にまで上昇したという。この売り上げ躍進の起爆剤となったのが,メルセデス・ベンツから生産を請け負っているスーパーカー「SLR」だという。この1台45万ドル(約5300万円)のスーパースポーツの生産が軌道に乗り,昨年度は2300万ドル(約26億9100万円)の経常利益を上げたことが,マクラーレン・グループの大幅増益に繋がった。

 マクラーレン・グループは,企業18社をまとめた本拠地である「マクラーレン・テクノロジーセンター」の建設に多額の資金,一説では3億5000万ドル(約409億5000万円!)とも言われている巨額を投じた結果,一時経営不振に陥っていると伝えられていた。しかし,この負債をダイムラー・クライスラーが肩代わりすることで,マクラーレンへの影響力を強めたとも言われているが,真相は定かではない。マクラーレン・グループの総帥ロン・デニスは,巨万の富と名声を得たことで,これ以上F1に固執する必要はない。果たして彼は,あとどのくらい現在のポジションに留まるのだろうか。

 さて,フェルナンド・アロンソの加入に伴い,マクラーレンには多くのスペインマネーが流れ込んでいる。加えて今シーズン始めに発表されていたように,ボーダフォンがタイトルスポンサーを務めることで,チームの経済状態は長期にわたって安定するものと思われる。しかし,それがすなわち速さに結びつくわけではない。今シーズン限りでマクラーレンを後にしたキミ・ライコネンは,「5年間で僅か11勝しか挙げられなかったのは,マシンに一貫性がなかったから」と発言している。ミハエル・シューマッハがフェラーリで行ったことをアロンソも行い,再びマクラーレンを「勝ち組」にすることができるのか。その答えが出るまでには,まだまだ長い時間がかかりそうである。

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2006年10月15日 (日)

狐と狸の化かし合い

 子どもにおもちゃをねだられ買い与えても,すぐにガラクタにしてしまう。せっかく手に入れた物でも,飽きてしまえばあとは用無しでなのだろう。しかしこれがF1参戦権となると,ずいぶん話は変わってくる。2008年からのF1参戦権を勝ち取ったプロドライブが,その権利を売却するのではないかという噂が立っている。プロドライブといえば,前B.A.R代表のデイビッド・リチャーズ氏が率いるレース屋で,かつてはF1だけでなくBTCCやWRCでタイトルを獲得するなど,幅広くレース活動を展開してきた。そのリチャーズ氏が再びF1界に戻ってくるためには,思いの外多くの障害が待ち受けていた。

 今シーズンはじめに行われた2008年からのF1参戦エントリーには,22チームもの申し入れがあった。既存11チーム以外には,昨年度までミナルディの代表を務めていた,ポール・ストッダート氏や,元ジョーダンのオーナーであったエディー・ジョーダン氏,元フェラーリドライバーのエディー・アーバイン氏など,F1に関わりの深い人物から,ART,ディレクシブなどのGP2チーム,そして,ロシアやアラブの大富豪まで,実にバラエティーに富んだ顔ぶれが並んだ。しかし,最終的に参戦権を獲得したのは,プロドライブだった。FIAとしても,過去に実績のあるプロドライブであれば,継続参戦の問題はないと考えたのだ。

 参戦権を獲得したプロドライブは,イギリスのウォリックシャー州にファクトリー建設の準備を進める一方で,カスタマーシャシーとエンジンの確保を進めていた。当初はシャシーを自社開発する意向でいたが,その後マクラーレン製シャシーとメルセデスエンジンを使用できるよう,マクラーレンとの交渉を続けていた。しかし,プロドライブ側が最新スペックのシャシー&エンジンをマクラーレンに求めたのに対し,マクラーレン側は,プロドライブに完全なるサテライトチームになることを求めたと伝えられた。この思惑の違いが,今回の参戦権売却話へと発展したのだろう。

 とは言えこの話,リチャーズ氏が交渉を有利に進めるための「ネタ」である可能性が強い。そもそもF1参戦権が,そう簡単に売却されることなどあるのだろうか?いくら資金をつぎ込んででも獲得したい者はいるだろうが,それをFIAが許すわけがない。参戦に当たっては,企業の規模や資金,過去の実績からチームの技術力まで数々の審査があっただろうし,右から左へと譲渡できるものではないだろう。子どものおもちゃとは訳が違うのだ。ホンダがSAF1と,トヨタがウィリアムズと,さらにはフェラーリがスパイカーとの連携を強める中で,ロン・デニス代表としてもサテライトチームは喉から手が出るほどほしいだろう。さてさて,リチャーズ狐とデニス狸の化かし合いが見物である。

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