2007年6月16日 (土)

科学では予想できないもの

 久しぶりに映画館に足を運んだ。鑑賞した映画は,ヒュー・ジャックマン,クリスチャン・ベール主演の「プレステージ」。19世紀末のロンドンを舞台にした「マジック」映画かと思ったら,途中から「科学」が結びつき,何とも意外な結末を向かえる。肝心の作品評価は・・・人それぞれであろう。さて,その科学をもってしても,予測不可能な事態は避けられない。カナダGPでBMWザウバーのロバート・クビサが壮絶なクラッシュから奇跡の生還を果たしたことは,現代F1マシンの安全性が確認された出来事だった。しかし,その「鉄人」クビサも,今週末のアメリカGPに出場することはできなかった。

 科学でマシンへのダメージを測定することはできても,人間へのダメージを正確に測定することは難しい。クビサはクラッシュ時,一時的に脳震盪を起こしており,これをFIAのドクター陣は重く見たようだ。前にドイツ人医師のベルント・カベルカ博士は,「インディアナポリスで再び脳震盪を起こせば,死の危険がある」と語り,短期間に同じようなクラッシュを起こした場合,命の保証はないとコメントしている。ましてやアメリカGPの舞台は,F1屈指のハイスピード・サーキットであるインディアナポリス。リスクを最小限に抑えるためには,適切な判断であったと考える。

 そのクビサに代わって,急遽BMWザウバーのカー№10をドライブするのは,弱冠19歳のセバスチャン・ベッテル。同チームのサードドライバーとして,昨年のトルコGP金曜フリー走行に出場すると,いきなりトップタイムを叩きだし周囲をあっと言わせた若者である。今季は同チームのリザーブ&テストドライバーを務めながら,ワールドシリーズ・バイ・ルノーにイギリスのカーリンから参戦。第4戦終了の現時点で,ポイントランキング堂々のトップをひた走っている。突然舞い込んできた朗報に「F1デビューを楽しみにしているよ。でも,この状況はもっと違った形で迎えたかったね」と,戸惑い隠せないベッテルだが,チームも好調なだけに,いきなりの好成績も十分考えられる。

 さて,このベッテル起用に最も警戒感を表しているのは,シートを譲る形になったクビサではないだろう。以前から「フランスGPでベッテルと交替か?」と囁かれてきた,トロ・ロッソのスコット・スピードである。本来ベッテルはレッドブル傘下のドライバーであり,BMWザウバーにレンタルされているのは周知の事実。一向に向上する気配のないスピードのパフォーマンスに対し,業を煮やしているというゲルハルト・ベツガー/トロ・ロッソ共同オーナーが,今回のベッテルF1デビューを皮切りに,ドライバーの交代を実行可能性も捨てきれない。それを実行するかしないかは,その人の心次第。これも科学では,予測できないよなぁ。

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2006年10月16日 (月)

ワークス最下位はどっちだ!?

 1980年代終わりから1990年代初頭は,4強と呼ばれたフェラーリ,マクラーレン,ウィリアムズ,ベネトン(現ルノー)が優勝争いを演じていた。これらのチームはワークスエンジンの供給を受け,毎年コンストラクタースランキングの上位を独占していた。それ以外のチームは4強の下,つまり5位が現実的な目標となった。5位の座は非ワークスチームのトップに立つことを意味していたのだ。しかし自動車メーカーが自チームを運営する現代では,同じ5位でも大きく意味合いが違う。BMWザウバーとトヨタが5位争いを演じているが,これに負けたチームは「ワークス最下位」ということになる。

 ザウバーを買収してワークス体制を敷いたBMWは,非常にうまく機能している。ザウバー時代よりもスタッフの人数は増えたが,それとてトヨタほど多くはない。シャシーとエンジンのバランスもよく,積極的な開発はシーズンを通して続けられた。どのタイプのコースでも安定した速さを発揮していることからも,F1.06の素性の良さが伺える。更に,ロバート・クビサのレギュラートライバー昇格以降,チームは完全な上昇気流に乗った。ポイントは獲得するものの,今ひとつパッとしなかったニック・ハイドフェルドも,いよいよ尻に火がついてきたのか,シーズン後半の方がいい走りをしている。

 一方のトヨタは浮き沈みが激しい。シーズン序盤はオーストラリアGPでラルフ・シューマッハが3位表彰台を獲得したものの,今シーズンから採用したブリヂストンタイヤとのマッチングに苦しみ,思うような成績が残せなかった。しかし,モナコGPでTF106Bを投入してからは徐々に速さと信頼性を増し,ヤルノ・トゥルーリがポイントを獲得する機会も増えた。2人のドライバーが安定した成績を残せるようになったことで,BMWザウバーを押さえての上位進出が期待されたが,トヨタはまたも失速してしまう。終盤戦にも毎戦アップデートした空力パッケージを持ち込むなど,可能な限りの開発を続けていたのだが,それが結果として表れないという最も苦しい状態に陥っている。

 世界最高峰のF1でコストパフォーマンスを考えるのはおかしな話なのかもしれないが,どのチームも資金が無尽蔵にあるわけではない。したがって,限りある資金をどう効果的に使うかは重要事項である。例えば,F1につぎ込んだ資金を獲得ポイントで割ってみると,コストパフォーマンスに優れたチームであるか否かが一目瞭然になる。その考えでBMWザウバーとトヨタを比較してしまうと,どう考えてもBMWザウバーに軍配が上がる。マリオ・タイセン/ディレクターも「我々は満足すべき進化を遂げた」と,1年目のチームを賞賛している。しかし5位争いで満足しているようでは,初優勝は遠のくばかりである。どちらももっと上位を目指さなければならないチームなのだから。

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2006年9月 1日 (金)

悩むなベッテル!!

 人間は誰もがひとつずつ才能を持って生まれてくると言うが,F1という厳しい世界は,生まれ持った才能だけで生き残ることは出来ない。彼らが最も輝くのはもちろんマシンをドライブしているときであるが,それ以外の場面でも「輝くもの」を持ち合わせていなければならないからである。その中で先週のトルコGPで鮮烈デビューを果たしたBMWザウバーのセバスチャン・ベッテルは,かなり恵まれた環境にいる。たった一度のトップタイムでベッテルを評価することは危険だが,彼が才能溢れるドライバーであることは間違いない。今シーズン一杯はBMWザウバーの第3ドライバーを務めると言われているが,来シーズンの就職先については頭を抱えるているだろう。

 レッドブルとBMWザウバー。どちらのチームを選ぶことが,ベッテルにとって最良の道なのだろう。ベッテルがレッドブルの育成ドライバーであることを考えると,優先交渉先はレッドブルになる。仮に来シーズンレッドブルと契約した場合,GP2へ参戦しつつレッドブルのテストドライバーを務めることになる。来シーズンのレッドブルは,デイビッド・クルサード&マーク・ウェバーのコンビが決定している。しかし,ベテランのクルサードは,来シーズン限りで現役引退する可能性が高い。そうなれば2008年シーズンのレギュラー昇格は,かなりの確率で約束されていることになる。

 こう考えるとレッドブルと契約することがベターであるように思えるが,心配されるのがレッドブルというチームそのものである。湯水のように資金を投入し,F1だけでなく世界中のカテゴリーに活動を広げているが,それに見合うだけの成績を残しているだろうか?モナコGPでクルサードがチーム初の表彰台はともかく,それ以外のレースでは目立った結果を残していない。結果次第でいくらでも行き先が変わってしまうのがプライベーターである。一方のBMWザウバーは純然たるワークスチームであり,F1フィールドに長く腰を据えて参戦していこうとする姿勢が見られる。

 移り変わりの激しいF1界では,1度きりしかないチャンスを逸すると,2度と輝きを取り戻せないことも数限りない。今は順風満帆たるベッテルであっても,この二者択一を誤ってしまえば,今後のドライバー人生に大きく影を落とすことになる。自分を育ててくれたレッドブルには恩義もあるだろうが,F1のフィールドに立つチャンスを与えてくれたのはBMWザウバーである。契約という柵もあるだろうが,かつてミハエル・シューマッハが僅か1戦でジョーダンからベネトンへ電撃移籍したように,それを打ち破る強引さがなければ,とてもF1で生き残ることはできない。とは言え人生を左右する決断を迫られるのだから,悩むなと言っても悩むよなぁ。

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2006年8月26日 (土)

驚異の新人登場で・・・

 年に数回「驚異の新人」と呼ばれるドライバーが登場するが,トルコGPでサードドライバーデビューを果たしたBMWザウバーのセバスチャン・ベッテルは,なかなか肝が据わっている。この弱冠19歳のルーキーは,過去に1度しかF1をドライブしていないにもかかわらず,初挑戦となるイスタンブール・パークで見事トップタイムをたたき出した。もちろんサードドライバーはエンジンの回転数やタイヤの本数を気にすることなく全開で走れるのだが,それにしても他の経験豊富なサードドライバーを押さえてのトップタイムは,賞賛を持って迎えられるべきものであろう。

 ベッテル自身も驚いているトップタイムだが,それを最も驚異に感じているのは,レギュラードライバーのニック・ハイドフェルドではないだろうか。ジャック・ビルニューブが引退し,名実ともにファーストドラーバーになったと思ったら,前任のロバート・クビサに勝るとも劣らない驚異の新人の登場である。さらに今週末のパドックでは「ハイドフェルドとトヨタのラルフ・シューマッハが互いのシートを交換するのではないか」という噂まで流れている。周囲が急に差がしくなってきたハイドフェルドだが,彼が首筋に寒いものを感じているとしたら,トルコGP前にひいた風邪の影響だけではないだろう。

 一方のラルフは積極的な走り込みで5番手のタイムをたたき出したものの,セッション終了後にエンジンの不具合が発見されたため,エンジン交換を実施するようだ。このろころ好調を維持しているトヨタは,このGPでも新空力パッケージを投入しているが,またしてもエンジンに足を引っ張られる格好となってしまった。トヨタエンジンは最近頻繁にトラブルを起こしており,ミッドランドのクリスチャン・アルバースはハンガリーGPに引き続き,今季3度目となるエンジン交換を余儀なくされている。第3期初優勝を果たしたホンダに続きたいトヨタだろうが,こうちぐはぐな状況では先行きが暗い。

 さて,ベッテルばかりに注目が集まっているトルコGPだが,久しぶりにステアリングを握ったSAF1のフランク・モンタニーも着実な仕事ぶりを見せている。SAF1はこのGPから新型のフロントサスペンションを投入予定であったが,結局間に合ったのは1セットのみとなってしまった。昨日のフリー走行では,それをモンタニーの41号車に装着し,基本的なデータ取りを行っている。フリー走行2回目のモンタニーと佐藤琢磨の差は,きっかり0.6秒。周回数の違いもあるが,新型サスペンションの効果もタイム差に表れていると思われる。今日のフリー走行3回目からは琢磨のマシンにこのサスペンションが移植されるはずであり,さらなるタイムアップが見込まれる。まずはQ2初進出なるか?今夜の予選を注目したい。

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2006年8月22日 (火)

スーパーライセンスという壁

 後々のことを考えると,優秀な人材はできるだけ早く確保するにこしたことはない。近年はドライバーの若年化が進んでいるが,トルコGPでBMWザウバーの第3ドライバーに起用されるセバスチャン・ベッテルも,現在ユーロF3でランキング2位につける若干19歳の若者だ。ザウバー時代からミドルフォーミュラの若手を積極的に起用してきたことは,このチームの大きな特徴ともいえる。先のハンガリーGPでデビューした2005年ワールド・シリーズbyルノーチャンピオンのロバート・クビサは21歳。それ以前にも20歳そこそこの若手にチャンスを与え,優れたドライバーを輩出している。

 その中でも特に有名なのが,現マクラーレンのキミ・ライコネンだろう。F3から国際F3000(現GP2)などのカテゴリーを経験せずにF1デビューを飾るドライバーは少なくない。しかしライコネンはF3を経験することなく,英フォーミュラ・ルノーから一気にF1にステップアップした強者である。モータースポーツを始めてから僅か5年でF1レギュラーシートを手に入れた佐藤琢磨の場合も奇跡に近い快挙と言われたが,ライコネンの3階級特進は正に奇跡といえる。しかし,その実力は誰もが認めることであり,それを見いだしたペーター・ザウバー氏の眼力もさすがである。ただ,度々話題になる酒癖の悪さまでは見抜けなかったようだが・・・。

 さて,第3ドライバーとはいえF1参戦を果たすには,スーパーライセンスが必要になることは言うまでもない。下位カテゴリーでそれなりの成績を収めていれば問題なく発給されるのだが,F3からの飛び級組の場合その年のチャンピオンでなければ発給資格はない。そのためベッテルの場合は,「事前に300km以上のテストドライブをしていれば,そのテスト結果や過去の参戦実績を基にF1委員会の審査により発給を認められる」という例外条件が適用される。先に挙げたライコネンやホンダのジェンソン・バトンも,この特例によりスーパーライセンスの発給を受けたドライバーである。

 しかし,この発給条件はなかなかのくせ者で,過去にも多くのドライバーが涙を飲んでいる。1992年にブラバム・ヤマハからデビューの予定であった中谷昭彦が,条件を満たしていたにもかかわらずスーパーライセンスの発給が認められなかったことは有名である。ベッテルの参戦するユーロF3はハイレベルであり,その中でタイトル争いをしているベッテルには,間違いなくライセンスが発給されるだろう。しかし過去には,どう考えてもF1をドライブできるレベルにないドライバーに,スーパーライセンス発給が認められたこともあった。F1が世界最高峰のカテゴリーであるならば,そこに集まるドライバーも世界最高峰であるべきである。FIAには厳正かつ公平な審査を望みたい。

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2006年8月19日 (土)

去るものは追わず・・・

 人は年齢を重ねると温厚になるというが,どうやらこれは現役最年長のミハエル・シューマッハにも当てはまるらしい。最近何かとお騒がせのジャック・ビルニューブから嘘つき呼ばわりされたシューマッハだが,これに対して一切の反論をせずにいる。必要以上のことを話さないシューマッハがこれしきのことでとやかく言うこともないだろうが,今回は完全無視の構えを見せている。今さら反論して事を荒立てることを良しとしない大人の対応なのか,言われた事など百も承知だからこその沈黙なのか。いずれにせよ,完全無視された形のビルニューブの発言が,負け犬の遠吠えのように聞こえてしまうのが虚しい。

 そのビルニューブに代わり,今シーズンいっぱいBMWザウバーをドライブすることとなったロバート・クビサは,来週に迫ったトルコGPへの意欲を示している。前回のハンガリーGPでは,デビュー戦とは思えない落ち着いた走りをしたクビサだが,最低重量違反という些細だが重大な違反により7位入賞を逃してしまった。最低重量にわずか2kg足りなかったということだが,これはゴール後にタイヤかすを拾い集めてくればクリアーできた重さである。それを怠ってしまったことが失格につながったのだが,クレバーなクビサのこと,もう同じ過ちを犯すことはないだろう。

 ハンガリーで喜びの初優勝に沸いたホンダからは,テクニカル・ディレクターのジェフリー・ウィリス離脱のニュースが伝えられた。中本修平のシニア・テクニカル・ディレクター就任を不服としていたウィリスは「ガーデニング休暇」をとっていたが,チーム離脱は時間の問題とされていた。B.A.R時代からチームの技術部門を統括していた彼にとってすれば,ホンダ色が濃くなった時点から居心地の悪さを感じていたのだろう。それが今シーズン初めの不振で,一気に加速してしまったのかもしれない。誇り高き英国紳士としては,イエローモンキーにあれこれ指図されるくらいならば,自分のやり方を通せるチーム(プロドライブとも伝えられてるが)のほうがマシということなのだろう。

 最後にSAF1の話題をひとつ。チームの顔である鈴木亜久里代表が,ホンダの重要な役職につくのではないかという噂があるらしい。詳細は定かではないが,「ホンダレーシング代表」といういささか信憑性に欠ける話も出ている。SAF1にとってホンダは,技術・資金両面から多大なサポートを受ける最重要パートナーである。それはホンダにとっても同じことで,2008年から始まるであろうF1新時代に向けて,SAF1はなくてはならない開発チームである。その顔である亜久里代表をホンダレーシングに取り込むことで,両者の関係をより強固なものにすることは十分考えられる。去るものは追われることがないF1界。新興チームが生き残るためにすべきことは何か,亜久里代表の手腕に期待したい。

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