2006年10月 2日 (月)

井出有治の小さな記事

 「心臓発作に近い勝利」と,フェラーリのルカ・モンテゼモロ社長が表現した,ミハエル・シューマッハの大逆転勝利で幕を閉じた中国GP。新旧王者が同ポイントのまま日本GPを迎えるとあって,いよいよモータースポーツファンのボルテージも高まってきている。そんな盛り上がりを少しでも伝えようと,各メディアや雑誌も直前情報を連日のように記載している。その中のAUTO SPORT誌に小さく掲載されていた記事に,言いようのない悲しさを覚えた。スーパーGTを統括するGTアソシエーションが,井出有治に対して今季残りのスーパーGTに対するエントリーを受け付けないことを決定した。

 ことの発端となったのは,8月20日に行われたスーパーGT第6戦鈴鹿1000km。ザナヴィニスモZのサードドライバーを務めた井出だったが,他車と接触したことで提示されたドライブスルーペナルティの表示を見落として周回を重ねてしまう。これを重く見たレースコントロールは黒旗を提示され,最終的に失格となってしまう。無線の故障など様々な不運が重なった結果での失格であったが,コトはこれだけでは収まらなかった。GTアソシエイションは,「タワーの表示を認識しない行為は,オフィシャルの存在を軽視した行為と同義」と,残り2レースのエントリーを拒否したのである。

 井出は今シーズンGTのレギュラードライバーではないため,実質何の影響もないように思える裁定だが,これが意味するものは非常に大きい。井出は今シーズン,サンマリノGPの「アルバース撃墜」でスーパーライセンスを剥奪され,F1サーキットから閉め出されている。さらに今回,GTドライバーとしても失格の烙印を押されたわけである。プロのレーシングドライバーにとって,己を表現することのできるサーキットから閉め出されるということは,その存在を否定されたことと同じである。今回の決定は,井出のドライバーとしての価値を著しく傷つけるものである。

 もちろん井出のスーパーライセンス剥奪には,政治的な要素が多分に含まれているが,彼にF1で戦い抜く能力が備わっていなかったことも事実である。一度狂った歯車はなかなか元に戻ることはない。何とかフォーミュラニッポンにシートを得たものの,精神的にも中途半端な状態では満足な結果を得られるはずかない。そういった精神状態で臨んだ鈴鹿1000kmの結末が,自分の存在価値を一気に引き下げてしまったのである。これまで一体どれだけの人間が,井出のF1復帰を信じてきたのだろうか。それでも鈴木亜久里代表は,井出のF1復帰をサポートし続けるつもりなのだろうか。小さな記事に記されるには,あまりに悲しい結末だった。

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2006年8月25日 (金)

消え去る者の運命

 移り変わりの激しい現代に於いて,人の記憶に長く留まることはなかなか難しいものだ。スポットライトが当たっているうちはいいが,それが消えればあっという間に忘れ去られてしまう。ロバート・クビサにシートを譲る形でF1引退に追い込まれたジャック・ビルニューブも,やがて人々から忘れ去られる運命にあるのだろうか。長年ビルニューブのマネージャーを務めてきたクレイグ・ポロックは,BMWチームの政治的な方針によってF1引退に追い込まれたと主張している。確かにこれは事実であろうが,もしビルニューブにかつての速さがあれば,チームもこうした判断を下すことはなかっただろう。

 日本のモータースポーツ界でも,先日ひとつの活動に終止符が打たれた。先週末に鈴鹿サーキットで行われた,スーパーGT第6戦鈴鹿1000kmを最後に,ディレクシブ・モータースポーツが全てのカテゴリーから姿を消した。このレースでディレクシブは70kgのウエイトハンデを課せられながらも2位入賞を果たし,現在GT300のランキングトップを維持している。今後は同体制を引き継ぐR&Dスポーツからのエントリーとなるが,資金的には依然厳しい状況にあるという。フォーミュラ出身の密山祥吾とハコ出身の谷口信輝という異色のコンビが,逆境を乗り越えてタイトルを獲れるか注目される。

 今回のディレクシブ撤退は,彼らを資金的に支えていたアキヤマ・ホールディングスが,「F1参戦」という目先の利益だけを追い求めた結果の悲劇である。そう考えるとディレクシブのドライバーやチームスタッフはもちろんのこと,芳賀美里代表もまた被害者の一人であると言える。彼女のレースに対する真摯な姿勢は多くの関係者の認めるところであったし,その熱意に多くのファンがエールを送っていたことも事実だ。爽やかなディレクシブ・ブルーをまとったマシンはサーキットから消えるが,まだ若い芳賀代表はまたいつかサーキットに舞い戻る日が来るかもしれない。

 さて,この鈴鹿1000kmで最も情けなかったのが井出有治であろう。ザナヴィニスモZの助っ人ドライバーに抜擢された井出だったが,他車と接触した上にドライブスルーペナルティの表示を見落として周回を重ね,最後は黒旗失格という最悪の結末を迎えた。ボーナスポイントの付く鈴鹿1000kmには,どのチームの必勝態勢で臨んでくる。そのための井出起用だったが,チームの期待に応えられなかったばかりか,自身の評価をも下げてしまった。無線の故障など様々な不運が重なったこともあるが,失格という結果には変わりない。このような走りをしていたのでは,F1復帰はおろかドライバーとしてもフェードアウトしてしまう。F1復帰を応援する多くのファンのためにも,井出にはもう一度自分の足下を見直してもらいたい。

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