勢いを取り戻せ!
アメリカという国は,色々な意味で「分かりやすい国」であると言われる。そこで成功した者は人々の拍手喝采を浴び,逆に失敗した者は,容赦なくブーイングを浴びせられる。2004年,この地で3位表彰台を獲得した佐藤琢磨は,今もアメリカのF1ファンに大人気であるという。ましてや今年は,前戦で「チャンピオン・アロンソ」をオーバーテイクしての6位入賞を果たしているだけに尚更である。先日「SPEED chanell」というトーク番組にアンソニー・デビッドソンと出演した琢磨は,「今話題沸騰のチーム、スーパー・アグリのお二人!」と紹介され,終始ご機嫌だったという。
さて,アメリカGPの舞台であるインディアナポリスで,一人の日本人ドライバーが新たな歴史を作った。IRLの下部カテゴリーである,インディプロシリーズに参戦中の武藤英紀である。武藤の所属するチームは,SAF1の鈴木亜久里代表が率いる,スーパーアグリ・パンサーレーシング。今回はその亜久里代表が見守る中,武藤は自身初となるPPから安定した走りを見せ,2位に大差をつけてのうれしい初優勝を飾っている。亜久里代表も「日本人だから,カテゴリーが何でも君が代を聞くのは気持ちがいいね」と,F1より一足先に上がった日の丸に,喜びを隠せないようである。
一方,難しい立場に立たされているのが,武藤の「兄貴分」にあたる松浦孝亮である。レースを観戦した松浦は「拍手するよりされる立場になりたい」と語り,武藤の初優勝を複雑な思いで見つめていたという。現在IRLにパンサーから参戦している松浦は,1年目こそ新人賞を獲得するなど活躍したが,その後は成績が低迷。4年目となる今季は背水の陣で臨んでいるものの,度重なるアクシデントに加え自身やチームのミスもあり,ここまで満足な成績を残すことができないでいる。そして,ここに来ての武藤初優勝。素直に喜べるはずもないだろう。先週武藤がIRLのマシンをテスト,チーム代表が太鼓判を押す走りをしたことも,松浦の心境をより複雑なものにしている。
レースに限らず,物事には全て「勢い」というものがある。松浦と武藤を比べた場合,開幕から常にトップ争いを繰り広げ,ついにはポール・トゥ・ウィンを果たした武藤にはそれがある。一方で松浦は,開幕戦,第2戦と続けてアクシデントに見舞われた上,上昇気流に乗りたかった第3戦では,まさかの1周リタイア。その後もチームとの連携ミスで上位フィニッシュを逃すなど,完全に負の流れに乗ってしまっている。これを覆すには,兎にも角にも「結果」を残す必要がある。ここ数戦,松浦の成績も徐々に上昇してきており,先日行われた第7戦では,今季最高位の9位でフィニッシュしている。ドライバー人生の分岐点を前に,失った勢いを取り戻すべく,松浦の奮闘が続く。
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