2007年11月11日 (日)

TDP三銃士三様の1年

 1年という時間を長いと考えるか短いと考えるかは,その人の捉え方しだいである。しかし,1000分の1秒を争うモータースポーツの世界に於いて,1年という時間は人生を大きく左右させるのに十分な時間である。ちょうど1年前,未来のF1ドライバーを目指し,共に激戦のユーロF3を戦った3人の若者がいた。ユーロ初参戦での光る走りが認められ,名門ウィリアムズのテストドライバーに抜擢された中嶋一貴。2年目のユーロを3位で終え,GP2へのステップアップを果たした平手晃平。フォーミュラ・ルノーのタイトルを手土産にユーロに参戦し,マカオGPではPPも獲得した小林可夢偉。それぞれが着実に結果を残し,次なる目標に向け羽ばたき始めた時であった。

 あれから1年。3人を取り巻く状況は,大きく変わり始めている。まず,何と言っても最大の成功者は,来季からウィリアムズのでF1フル参戦を果たす一貴であろう。今季の一貴はDAMSからGP2に参戦し,ルーキー最上位のランキング5位という結果を残した。当初は来季もGP2に参戦し,今季果たせなかった勝利とタイトルを狙うものと思われていたが,事実上の「テスト参戦」となった最終戦ブラジルGPでの走りが認められ,ついに念願のレギュラーシートを獲得した。GP2未勝利の一貴に対し,「レギュラードライバーになるには経験が足りない」との声もあるが,そこは適応力の高い一貴のこと。きっと来季は,我々を驚かせてくれる活躍をしてくれることだろう。

 一貴が夢への階段を一気に駆け上がったのに対し,不本意な形でヨーロッパを後にしたのが晃平である。トライデントからGP2に参戦した晃平だったが,わずか9ポイントのランキング19位でシーズンを終えた。不振の原因は,チームスタッフとのコミュニケーション不足。と言っても,これは晃平だけの責任ではなく,彼の言うことを聞こうとしなかったチームにも問題がありそうだ。もちろん,与えられた環境で最大限の成果を発揮しなければ,次へのステップに繋がらないのだが,せめてあと1年チャンスが与えられなかったのかとも思う。ただ,晃平はまだ21歳と若い。次なるステップに向け,来季は日本での復活を期待したい。

 最後は2年目となるユーロF3で,タイトル獲得を狙った可夢偉。しかしその可夢偉も,今季は不完全燃焼の1年となってしまった。マニクールで待望のユーロF3初優勝を挙げたものの,トラブルやアクシデントで結果に結びつかないレースが幾度となく続き,最終的にランキングは4位。それでも来季はGP2への参戦が確実とされており,既にARTやDAMSでテストも行っている。順当に行けば,トヨタのテストドライバーも務めるはずであり,「トヨタの秘蔵っ子」とも言われる可夢偉の未来は明るい。今季の彼に残された仕事は,マカオGPでF3の総決算をすることである。TDP三銃士にとっては三者三様の1年だったが,来年の今頃はまた違った人生が見られるのだろう。

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2007年4月14日 (土)

どちらも目が離せない!

 最近週末が来るのが待ち遠しい。もちろん休みがうれしいのは至極当然のことなのだが,それに加えて最近の週末は「レース」がある。今週末は,第2戦マレーシアGPからの2週連続開催となるバーレーンGP。サーキットで戦う者たちにすれば,これ以上のないハードスケジュールだが,見ている者たちにとっては,これ以上ない幸せである。さて,昨日行われたフリー走行では,フェラーリ勢が1-2とまず好調なところを見せている。オフシーズンテストでも,バーレーンではフェラーリの速さが際だっていたが,その流れは今も変わっていないようだ。前戦はエンジンを労りながら,我慢の走行を強いられたキミ・ライコネンも,今回は思い切った走りを見せてくれることだろう。

 一方,マレーシアGPでマクラーレンのルイス・ハミルトンにしてやられてしまい,自身の評価を下げてしまったフェリペ・マッサにとっては,もうミスの許されないレースとなる。マッサの弱点は,マシンが出来上がっている時は手のつけられない速さを発揮するが,いざトラブルに苛まれると,本来の速さが影を潜めてしまうことである。そのマッサを完全に押さえ,2戦連続の表彰台を獲得したハミルトンには,前人未踏のデビューから3戦連続の表彰台という記録がかかっている。本人はそれほど意識していないようだが,周囲の期待は高まるばかりである。

 開幕戦から極度の不振にあえいでいるホンダは,バーレーンでもその状況が急変することはないだろう。一度悪い流れに陥ってしまうとなかなか抜け出せないもので,フリー走行2回目では,ジェンソン・バトンにエンジントラブルが降りかかっている。ホンダにとってせめてもの救いは,ルーベンス・バリチェロがいくらかまともなタイムを記録できたことだろう。SAF1もまずまずの金曜日を過ごしたようだ。両ドライバーともペースは悪くなく,「ロングランのスピードは先週の勢いを維持している」と,佐藤琢磨も予選に向けて明るいコメントを残している。SAF1デビューの地であるバーレーンで,再び予選Q3進出&待望のポイント獲得に向けて,まずは好発進といったところだろう。

 最後に,今週末もう一つの楽しみであるGP2について。いよいよバーレーンで開幕戦を迎える今季のGP2は,日本人ドライバーが3人出場するという,非常に楽しみなカテゴリーである。昨日行われた公式予選では,トライデントの平手晃平が,トップから0.34秒差の6番手,DAMSの中嶋一貴が0.433秒差の9番手と,まずまずのポジションを獲得している。BCNコンペティションの山本左近は,残念ながら18番手と後方からのスタートと,テスト不足が響いている感は否めない。トップから16番手までが1秒差という,超接戦のカテゴリーで,日本人ドライバーたちがどんな戦いを繰り広げるのか。今週末はF1とGP2,どちらのレースからも目が離せない!

参照リンク:FMotersports  F1通信

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2007年2月24日 (土)

ワンメイクは超接戦!

 久しぶりの休日にのんびりしようと思い,向かった行き先は何と職場・・・。何とも情けない休日だが,これはこれで楽しみもある。喧噪に包まれた我が家や,ウィークデーの職場とは異なり,休日の職場では誰にも邪魔されることない。コーヒーを飲みながら,静寂に包まれた環境で,一人キーボードをたたくことができるのだ。さて,ドライバー達の職場であるサーキットにはここ数日,エキゾースト・ノートが響き渡っている。F1ではバーレーン合同テストが2日目を迎え,各チームとも開幕戦を前に熱のこもったテストを続けている。しかし,それに勝るとも劣らない超混戦のテストが行われているのが,フランス・ポールリカール。「F1予備校」GP2の合同テストである。

 今季GP2に参戦する日本人ドライバーは3人。まず注目が集まっているのは,TDP三銃士の長兄で,DAMSからエントリーする中嶋一貴である。久しぶりのGP2ドライブとなる一貴は,「長いこと乗っていないので,GP2がどんなだったか忘れてしまっているので,ちょっとずつ気をつけながらやろうと思います」と話していたとおり,初日の22日はタイムシートの中段に位置していた。しかし2日目となる昨日は順調に周回を重ね,最終的にトップARTのルカ・ディ・グラッシから約0.4秒遅れの6番手に浮上。徐々に,F1からGP2モードに切り替わってきているようである。

 三銃士の次兄,トライデントからエントリーする平手晃平も,まずまずの速さを見せているようだ。初日の午前中に8番手タイムを記録した晃平だったが,午後は雨により,2日目の午前中はトラブルにより,周回数を伸ばすことができなかった。しかし,天候の回復した2日目の午後にはトータル45周を走り,一貴に僅差で続く7番手となっている。対照的に心配なのが,BCNコンペティションから参戦する山本左近である。今回がGP2初ドライブとなる左近は,まだマシン特性をつかみ切れていないのか,初日・2日目とも最下位に沈んでいる。参戦決定が遅くなってしまったのは痛いが,GP2はテストが少ないだけに,早く本来の速さを発揮してもらいたいものである。
 
 一方,昨年まで2年間,DPRからGP2を戦ってきた吉本大樹は,今季チーム5ZIGENからフォーミュラ・ニッポンへの参戦が決まっている。ディレィシヴ・EMSと,マネージメント会社が次々に解散するという不運に見舞われた大樹。しかし,GP2もフォーミュラ・ニッポンも,共にハイレベルなカテゴリーである。彼には日本で心機一転,再出発を期待したい。それにしても,1秒以内に20台がひしめき合うという超接戦は,ワンメイク・カテゴリーらしい混戦だが,GP2で昨年・一昨年とあった,「あるチームのマシンだけが異様に速い」という状況は避けてもらいたいなぁ。

 参照リンク:@nifty F1通信

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2007年1月19日 (金)

左近の適切な環境

 人が成長するために最も重要な要素が,その人を取り巻く生活環境である。幾ら才能あふれる人物であっても,それに見合った環境にいなければ,才能を開花させることは難しくなる。逆に,適切な環境を手に入れれば,自身の能力を大幅に向上させることもできる。F1に辿り着くためにも,適切な環境を手に入れる必要がある。以前「チャンスを生かす能力」でも述べたことだが,F1ドライバーになるためには、適切な時期に,適切なポジションにいることが重要なのである。今季SAF1のセカンドテストドライバーとしてチームに残る一方,自身の能力をアピールすることの出来る場所を探していた,山本左近の参戦カテゴリーが決定した。

 左近の選択したカテゴリーは,今や「F1予備校」として多くの若手がしのぎを削るGP2シリーズ。注目の所属チームは,過去2年間日本人として唯一参戦していた吉本大樹が所属していたBCNコンペティションに決定した。BCNは決してトップチームとは言えないものの,F1関係者の目にとまることの多いGP2に参戦できたことは大きい。ARTAが参戦しているフォーミュラ・ニッポンに戻ることも考えられただろうが,ヨーロッパから離れてしまっては,F1との距離が開いてしまうことになる。2008年からのレギュラー再昇格を目指す左近にとって,GP2は最も適切な環境であると言えるだろう。

 既に今季のGP2には,DAMSから中嶋一貴が,トライデントから平手晃平が,それぞれ参戦することが決定しており,これで3人のドライバーがF1予備校に入学したわけである。国際F3000時代を通じて,3人もの日本人ドライバーがF1直下のカテゴリーに参戦したことはない。ただ海外に行けばいいというわけでもないが,これが日本でレースをする若手にも大きな刺激になることは間違いない。過去2シーズン,GP2で上位の成績を収めた者は,確実にF1のシートを手に入れている。裏を返せば,GP2で速さを見せられない者に,F1のシートが与えられることはないのだ。自身を最も厳しい環境で鍛え上げることができれば,左近の再昇格は現実のものになるだろう。

 一方で左近のGP2参戦は,実質的に彼の金曜フリー走行でのドライブがないことを意味する。尤もこれは,リザーブドライバーのギド・ヴァン・デル・ガルデが金曜走行を明言していたことから,ある程度予想されたことではある。昨日に引き続きへレスでテストを続けているSAF1は,アンソニー・デビッドソンがチーム初となるトップタイムをマークするなど,好調さを内外にアピールしているが,プライベートテストが制限させる中では,左近がSAF1のテストを行うチャンスは極めて少なくなるだろう。そのためにも左近はGP2で結果を残すしかない。「ポスト琢磨」は果たして誰になるのか?今季は左近を含めた「GP2トリオ」も要チェックである。

参照リンク:@nifty F1通信

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2006年11月 8日 (水)

チャンスを生かす能力

 モータースポーツは弱肉強食の世界であり,いわゆる負の連鎖を断ち切ることができないと,その先に進むことなくドロップアウトしてしまう。一転,目の前に立ちはだかっていた壁が取り除かれると,途端に力を発揮することもあるからわからない。今シーズンの佐藤琢磨などは,そのいい例である。ジェンソン・バトンという呪縛から解き放たれた途端,見違えるような走りを披露した。かといって来シーズン,フェルナンド・アロンソという呪縛から解放されるジャンカルロ・フィジケラが,同じように速さを発揮できるとは限らない。本人は「来季は主役になる」と鼻息が荒いが。

 さて,今やすっかりF1への登竜門として定着したGP2は,スペインのへレスでテストを繰り返している。オフシーズンのテストは,来シーズンのシートを決めるためのオーディションという意味合いが強い。そしてここには,TDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)の一員である中嶋一貴と平手晃平が,今シーズン日本人で唯一参戦していた吉本大樹とともに参加している。DAMSから参加した一貴は,26台中6番手のタイムをたたき出し,周囲にその速さをアピールしている。一方トライデント・レーシングのマシンを駆った平手は18番手にとどまったものの,先週のポールリカールテストでは好タイムを出しており,こちらも関係者の評価が高い。

 数年前にも,未来のF1ドライバーとして嘱望された3人がいた。2001年イギリスF3王者の琢磨,同じくドイツF3王者の金石年弘,そしてフランスF3王者の福田良である。3人とも激戦のヨーロッパF3を舞台にその才能を遺憾なく発揮し,日本人トリオによるF3タイトル独占という偉業を成し遂げた。しかし,その中でF1ドライバーとして活躍できたのは,ご存じの通り琢磨だけである。金石は日本に戻りフォーミュラ・ニッポンに参戦するも伸び悩み,未だ負の連鎖から抜け出していない。福田はヨーロッパに残りB.A.Rのテストドライバーとなるものの定着することはできず,A1やワールドシリーズ・バイ・ルノーに活躍の場を求めたが,以前のような速さを発揮することはできていない。

 中嶋・平手,そして小林可夢偉の「TDP三銃士」が,今最もF1に近い日本人ドライバーであることに疑いの余地はない。しかし,3人が3人ともF1ドライバーになれるとは限らない。かつての「F3チャンピオントリオ」と同じように,誰か一人がステップアップの階段を駆け上がり,残された者は人知れず去っていくことになるのかもしれない。人,生を大きく左右する「ワンチャンス」をつかむためには,まず己に能力がなければならない。「シンデレラボーイ」という言葉もあるが,そうなるためには適切な時期に,適切なポジションにいることができる能力が必要なのである。さて,3人の未来は?  

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2006年9月16日 (土)

未来をつかむ適応力

 毎年のことながら,シーズン終盤戦が来ると来年度の話があちらこちらから聞こえてきて,外野で見ているほうとしては面白い。チーム首脳陣は,来シーズンのパッケージを決めるために奔走しているだろうが,ドライバーも生き残りをかけて必死に戦っている。F1のシートは限られているので,そこからあぶれた者たちは,別のカテゴリーに生きる道を探すか,引退して第2の人生を歩むかという選択を迫られる。ミハエル・シューマッハのように,自らの意思で引退を表明できるケースは稀であり,大抵の場合はチームからの解雇や,アクシデントによりF1フィールドから姿を消すことになる。

 今シーズンF1から引退するのは,シューマッハとファン・パブロ・モントーヤ、ジャック・ビルニューブの3名。これに加えて,3戦を残してレッドブルから解雇されたクリスチャン・クリエンもシートが怪しい。来シーズンはヘイキ・コバライネンやルイス・ハミルトンのなど,GP2上がりの注目ルーキーがグリッドにつく。さらには,ネルソン・ピケJrやセバスチャン・ベッテルのように,粋のいいリザーブドライバーが後には無数に控えているので,F1学園の現役生たちもうかうかして入られない状況にある。来シーズンで契約の終了するベテラン勢にとっては,1戦1戦が勝負のレースになってくる。

 F1にステップアップするルートは様々だが,GP2の誕生以降,このカテゴリーの成績優秀者はもれなくF1のシートを獲得している。昨年度は上位3名,今年度も上位2名のドライバーがそれぞれ「進級」しているのだ。その中で2年間戦った吉本大樹は,今シーズンをランキング14位で終えた。序盤戦は表彰台を獲得するなど好調であったが,中盤からトラブルが相次ぎ失速。BCNで戦った2年間は,思うような結果を残せないまま終わることになった。彼のパートナーであったアーネスト・ビソやティモ・グロックは,BCNから移籍した途端に優勝を果たしている。シーズンオフは移籍を検討していた吉本だったが,結果的に勝てる流れをつかみ損ねてしまったのかもしれない。

 では,これから日本人ドライバーがF1を目指すには何が必要なのか。もっとも必要とされるのは「適応力」であろう。もちろん速さも必要ではあるのだが,F1のレベルまで来ると,どのドライバーもさして変わることはない。しかし,その速さを限られた時間の中でアピールするには,様子見の時間は許されないのである。それを証明しているのが,第3ドライバーデビューでトップタイムを出したベッテルである。それまでの彼は,数限りなくいるF1予備校生の中のひとりであったが,たった1時間で未来のF1シートを確実のものとした。これからも,日本人ドライバーにチャンスはやってくる。しかし,その時に自分の持つ力を最大限発揮できなければ,彼らにF1という未来はやってこない。

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