2007年12月24日 (月)

お金では得難い「感動」

 ウェブの中をウロウロしていると,時々面白いサイトに出くわすことがある。今日見つけたサイトは,「MyBoo」というブログ解析サイト。自分の書いているブログに「どんな話題」が多いのか,そこには「どんな気分」が現れているのかなどを解析できるという。早速このサイトのURLを入れ解析してみた。結果は,『「感動の様子」がブログににじみ出てます。話題に関しては「本」について多く書かれているみたいです。』とのこと。本についてのエントリーはそれほど多くないと思うが,「感動の様子」と言われれば「当たらずとも遠からず」かもしれない。モータースポーツの世界には,お金では得難い「感動」がであるからである。

 クリスマス休暇真っ最中のF1界。当然,世界に発信されるニュースも多くはない。しかし,そんな中でどうしても探してしまうのが,SAF1に関するニュースである。チームの危機的な財政状況が伝えられる中,先週ダニエレ・オーデット/マネージング・ディレクターは,「我々にはまだふたつの問題がある」と,現状を語っている。二つの問題とは,既に周知の通り,4000万ドル(約45億円)にものぼる金銭的損失と,中々結論の出ないカスタマーシャシーの問題である。カスタマーシャシー問題に関しては,年明けに裁定が行われると言われているが,これらが解決されないことには,来季の計画など立つはずもない。

 鈴木亜久里代表は,現在も複数の企業とスポンサー契約のと話し合いを続けているという。しかし,SAF1の創設以来言われ続けていることが,「日本企業はあまり興味を持ってくれない」ということである。現在日本中を探しても,億単位の広告宣伝費をモータースポーツに使うことのできる企業は限られている。ましてやF1は商標権の問題から,レース映像を広告媒体として使うことは不可能に近い。そうなると,宣伝の為だけではなく,スポンサー同士の「Business to Business」いわゆるBtoBと呼ばれる企業間取引が見いだせなければ,企業側もF1に興味を示してはくれない。しかし,残念ながらプライベーターであるSAF1には,それを推進するノウハウが殆どないのである。

 一方,同じプライベーターでありながら,このBtoBを積極的に取り入れ,多くの企業から支援を受けているチームがある。F1界の古豪ウィリアムズである。ウィリアムズのスポンサーにはAT&Tを始め,レノボ,RBS,ロイター,アリアンツなと,多くの企業が名を連ねている。これらの企業はただスポンサーとしてチームに資金を提供し,マシンにロゴを露出させているだけではなく,互いのビジネスチャンスを拡大できるのである。ウィリアムズのスコット・ギャレット/スポンサーシップ・マネージャーは「2002年以降,我々のパートナー間で5億ドル(約588億円!)に相当するビジネスを促進してきた」とBtoBの成果を語っている。「感動」を得るためには,やっぱりお金も必要だよなぁ。

参照サイト:MyBoo

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2007年12月 2日 (日)

HONDAに纏わるエトセトラ

 26歳という若さでこの世を去った童謡詩人,金子みすゞの代表作「私と小鳥と鈴と」に「鈴と,小鳥と,それから私 みんな違ってみんないい」という部分がある。このフレーズは,個性重視の現代社会を象徴する言葉としてよく耳にするが,多少解釈が曲げられている気がしてならない。本来「みんな違ってみんないい」とは,何でもかんでも許されると言う意味ではない。集団の中で「個性」が生きてこそ,初めて「みんな違ってみんないい」なのだ。今季のマクラーレンを例に挙げるまでもなく,いくら優秀な人物が集まろうとも,各が好き勝手をやっていたのでは良い結果が得られるはずもない。

 では,個性的な人物が不必要なのかというと,決してそう言うわけではない。組織によっては,強力な個性を求めているところもあるだろう。そのひとつであり,今季大不振に陥ったホンダは,元フェラーリのテクニカル・ディレクターであったロス・ブラウン氏を,チーム代表として迎え入れている。和田康裕チェアマンによると,ブラウン代表の担当する領域は「モノづくりも含めて,マシン開発,レース運営全て」とのことであり,いわゆるテクニカル・ディレクターの仕事を含むチーム代表と言うことになる。長らく不在だった技術部門を束ねる人物が誕生したことで,マシン開発はもちろん,ホンダの苦手分野であった戦略面でも,ブラウン代表の手腕が発揮されることになるだろう。

 そしてもう一人,ホンダ加入の噂が上がっているのが,マクラーレンを僅か1年で飛び出したフェルナンド・アロンソである。もっともこれは,ルノーやレッドブルとの交渉を有利に進めるため,アロンソサイドがリークした情報との見方が強い。複数年契約を持ちかけているルノーやレッドブルに対し,1年契約を希望するアロンソ側と話し合いが平行線をたどっているが,自身の選択肢を増やすためにも,1年契約はアロンソにとって譲れない「絶対条件」だろう。当初ホンダは,アロンソ騒動とは無関係と思われていたが,ルーベンス・バリチェロがロスブラウンと共にSAF1のファクトリーを訪れたという報道もあり,ここにきて動きが慌ただしくなってきている。

 そして気になるのが,もう一つの「HONDA」ブランド,SAF1である。今週のへレステストには,まだ来季の去就を明らかにしていない佐藤琢磨が,テストドライバーのジェームス・ロシターと共に参加する見通しである。使用するマシンは前回のバルセロナテストと同じく,SA07-5Bと呼ばれるRA107であると考えられる。カスタマーシャシー問題が未解決のため,来季体制も不確定なSAF1だが,少なくともSA07を来季も使い続けることはないだろう。最も可能性が高いのが,RA107を栃木研究所のバックアップの元,改修して使用するパターン。果たしてそれが琢磨の言う「納得できるパッケージ」なのかは不明だが・・・。HONDAに纏わるエトセトラは,まだまだ続きそうだ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年11月25日 (日)

鈴木亜久里の「冒険」

 「冒険」と「探検」の違いをご存じだろうか。一般的に「冒険」とは「危険な状態になることを承知の上で,あえて行うこと」であり,「探検」は「未知の地域に入り,実際に調べること」であるという。つまり,この二つの言葉の違いは,「命の危険があるかないか」ということになるだろう。先月,SAF1の誕生から現在に至るまでがまとめられた「鈴木亜久里の冒険」という本が出版された。不可能と言われた128日でのF1参戦を実現し,今季2年目のシーズンを戦い終えた鈴木亜久里代表とSAF1。その過程は,まさに命を賭けた「冒険」そのものであったことを,本書は記している。

 この本の著者は,ベテラン・モータースポーツジャーナリストで,SAF1のHPでは各GPごとにインサイド・レースレポートを執筆する赤井邦彦氏。チームを最も近くから見守り続けてきたジャーナリストとして,今まで明らかにされていなかったSAF1の舞台裏をが克明に記している。当初亜久里代表が,ホンダの共同オーナーとしてF1参戦を考えていたこと。ディレクシブが,亜久里代表のB.A.R株式買収を支援する予定であったこと。今まで謎とされていた4800万ドル(約58億円)もの供託金の出資者が,あおぞら銀行であったこと。冒頭から今まで謎とされてたことが次々と明らかにされ,読む者を惹きつけて止まない。秋の夜長にぴったりの,インサイドストーリーとなっている。

 さて,そのSAF1だが,総勢150名のスタッフのうち30名ほどが人員削減されたとの報道がされたように,残念ながらチームの状況は芳しくないようだ。SSユナイテッドの債務不履行があった後,チームはマシン開発を凍結し何とか今季を乗り切った。しかし,来季に向け更なる資金を調達しなければ,再びチーム売却の恐れも出てくる。最大のネックとなっているのが,カスタマーシャシー問題の結論が依然として出ていないことである。亜久里代表は,「決めるのはFIAとFOMだが,すでに落とし所は見えていると思う」との見解を示しているものの,この状況に新規スポンサーが二の足を踏んでいることは明らかだろう。

 一方,来季のドライバーラインアップも依然として発表がない。先日ツインリンクもてぎで「Enjoy Honda ホンダ・レーシング・サンクス・デー」に参加した佐藤琢磨は,「いくつかのチームと交渉をしているが,SAF1がボクの期待するポテンシャルを出してくれれば,来年も同じチームで闘いたい」と,SAF1残留が基本線であることを示している。しかし,「ボク自身が納得できるパッケージが揃っていないので,最終合意には達していない」とも語っているとおり,チームが来季を戦えるだけの体制を整えられなければ,状況は大きく変わってしまうだろう。チーム,スポンサー,マシン,ドライバー・・・。鈴木亜久里の「冒険」は,まだまだ続く・・・。

| | コメント (8) | トラックバック (1)

2007年8月26日 (日)

アンソニーに必要な運

 3週間ぶりに,サーキットにエキゾースト・ノートが響きわたっている。やはり,F1レースのある週末はいい。今だ残暑厳しい日本だが,今夜は遠くトルコ・イスタンブールに想いをはせることにしよう。今季は連戦が多いF1サーカスだが,ここ3週間はテストも禁止期間であり,思い思いの夏休みを過ごした各ドライバーは,体力・気力ともに充実した状態でサーキット入りしている。ところがSAF1の佐藤琢磨は例外のようだ。彼は今週始めに体調を崩してしまい,木曜日に予定されていた記者会見をキャンセルしている。幸い大事には至らず,金曜日からはいつも通り仕事場であるSA07のコックビットに戻ったが,どうも週末の流れは琢磨のものではないようである。

 昨日行われた公式予選では,チームメイトのアンソニー・デビッドソンが悠々とQ2に進出し,最終的にQ3目前の11番手を獲得したのに対し,琢磨は原因不明のグリップ不足に悩まされペースが上がらす,19番手でQ1脱落を喫している。琢磨は午前中のフリー走行終盤,前日アンソニーがコースアウトしたターン3でスピンし,オプションタイヤでのアタックができなかった。しかし,マシン全体のフィーリングには満足しており,予選に期待を持たせていた。しかし結果は前述の通り,アンソニーにQ1で0.649秒の差をつけられての19番手。マシントラブルやミス以外でこれだけの差がつくことは,通常考えられない。

 序盤戦では,琢磨とアンソニーの速さにあまり差を感じることはなかった。事実,第7戦アメリカGPまでの二人の予選対決は,琢磨4勝に対しアンソニーが3勝。Q1突破回数も共に4回ずつと,よきライバルとして互角の結果を残していた。しかし,ヨーロッパラウンドに入ってからは,アンソニーが琢磨を上回ることが多くなる。ここ5戦の予選対決は,琢磨1勝に対しアンソニーは4勝。Q1突破回数も琢磨が1回なのに対し,アンソニーは3戦連続Q2進出と完全に琢磨を凌駕している。第8戦フランスGPでの10番手グリッド降格も含めれば,ヨーロッパラウンドに入ってからの琢磨は,一度もアンソニーの前からスタートしていないのである。

 B.A.R&ホンダで,長年に渡ってテストドライバーを務めてきたアンソニーは,元来速さには定評のあるドライバーである。念願のレギュラードライバーとなった今季も,序盤戦からしばしば琢磨を上回る速さを見せていた。そして,ここ数戦安定した結果を残しているアンソニーは,チーム内でも高い評価を得ている。こうなると,うかうかしていられないのが琢磨である。確にレースで結果を残しているのは,エースである琢磨の方なのだが,アンソニーの結果が度重なる不運によるものであり,彼本来の実力を示していないことも事実である。「運も実力のうち」と言うが,アンソニーに必要なのは正にその運なのである。ひょっとすると今夜あたり,幸運の女神がアンソニーにも微笑んでくれるかもしれない。

| | コメント (8) | トラックバック (1)

2007年8月18日 (土)

花火ではなく雑草のように

 美しさと儚さを併せ持つ花火は,夜空を彩る夏の風物詩である。しかし,花火が暗い夜空を色鮮やかに染め上げ,どんなに美しく咲こうとも,一瞬先で待ち受けているのは,漆黒の闇である。華麗なるモータースポーツの世界も,そんな花火に似ている。数々の苦難を乗り越え誕生し,資金も技術も経験もないが,結束力だけはパドック随一のSAF1。そんな情熱が原動力となり,テールエンダーの常連だったチームは,僅か1年あまりでポイントを獲得するまでに成長した。しかしここ1週間,SAF1の将来について,様々な憶測が流れている。

 SAF1は現在チーム株式の売却交渉を,GP2に参戦しているカンポスレーシングのオーナーであるエイドリアン・カンポス氏と,そのビジネスパートナーであるスペイン人実業家,アレハンドロ・アギャグ氏と行っている。SAF1側は,少数株式の売却を検討しており,その資金を今後のチーム運営に充てようと考えている。既にアギャグ氏は,「4,000万ユーロ(約64億4,000万円)を投じてSAF1株式の40%を取得した」と発表しているが,亜久里代表は,「チームは売却していないが,話し合っている」と述べ,交渉が現在も継続中であることを明らかにしている。 

 鈴木亜久里代表が常々語っていたように,SAF1の資金難は今更始まったことではない。参戦1年目の昨年は,スポンサー交渉を電通に委託し,年間参戦に必要な資金を何とか確保していた。そして2年目となる今季は,日本だけに限らず国際的なスポンサー獲得に向け,チーム独自の交渉を始めていた。しかし,カスタマーシャシー問題に揺れるSAF1を積極的にサポートしようと考える企業は少なく,シーズン前から交渉していたメインスポンサーとの交渉も,結局まとまることはなかった。そんな窮地のSAF1を救ったのが,謎の企業「SS UNITED」であった。しかし,活動実態がほとんどないこの企業との契約を疑問視する声は,開幕当初から数多く挙がっていた。

 そして案の定起こってしまった,スポンサー料の未払い。ダニエレ・オーデット/マネージング・ディレクターは,1回目の支払い以降一向にスポンサー料を支払わないSS UNITEDに対し,告訴をも視野に入れているという。併せてオーデット氏は,「確かにわれわれにパートナーが必要なのは確か」と,資金難に陥っている現状は認めながらも,チーム経営権を譲渡する50%以上の売却は否定しており,今後も「日本のSAF1」は継続される見通しである。しかし,何が起こるか分からないのがF1界。いずれ消えてしまう花火ではなく,誰に踏みつけられても生き続ける雑草のように,SAF1にはどんな形であれサーキットで生き残ってもらいたい。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年8月12日 (日)

SAF1に何が起きている!?

 「金は天下の回りもの」と言うが,それが回ってきた試しがない庶民は,諺の意味をどう理解すればよいのだろうか。バブル景気に沸いた時代ならいざ知らず,ガソリンの平均価格が150円に迫る勢いを見せている今日,1円でも無駄にできないと考えている人は多いだろう。しかし,金がなくて困っているのは,何も我々庶民だけではない。2年目の今季,ホンダワークスを上回る活躍を見せているSAF1も,現在明日をも知れぬその日暮らしの戦いを強いられているのだ。先週行われたハンガリーGPのパドックでは,SAF1が深刻な資金難に陥っているという噂が駆けめぐった。

 SAF1は開幕直前,香港に拠点を置く「SS UNITED」という石油会社とスポンサー契約を結んだ。しかし7月以降,この企業がスポンサー料の支払いを滞っており,その影響によりチームは,活動規模を縮小せざるを得ない状況だという。現在SS UNITEDのHPはリニューアル中で閉鎖状態にあり,関係者とも連絡がとれない状況だという。この企業については,F1のスポンサーに名乗り出た割には経営実態がほとんどないなど,当初から怪しげな雰囲気が漂っていた。亜久里代表も,資金不足については常々口にしていたことだが,スペイン人実業家とチーム株式の売却交渉をスタートさせたとの話もあり,いよいよSAF1は深刻な状況に陥ってしまっているようだ。

 更にもう一つ,SAF1に関する不可解な話がある。チームは現在,イギリス・リーフィールドにあるファクトリーを拠点にしているが,このファクトリーの更新契約を結んでいないというのである。元々このファクトリーは,TWR率いるアロウズが使用していたものだが,アロウズ消滅後はメナードの手に渡り,現在はSAF1がメナードから賃貸しているものである。SAF1の参戦当初,「リーフィールドの賃貸契約は3年であり,その間にホンダの拠点であるブラックレー近くにファクトリーを建設する」という話もあった。しかし,資金難に喘ぐチームに,ファクトリーを建設できる余裕があるはずもない。もしかするとこれも,チーム株式売却と何らかの関係があるのかも知れない。

 だが,亜久里代表はハンガリーGPで,「2008年は独自にマシンを製造する」という注目すべき発言をしている。そもそもSAF1は,来季からホンダの現行型シャシーであるRA107,或いは来季型のRA108を購入するものと思われていたので,この亜久里代表の発言は驚きを持って捉えられている。亜久里代表は集まった記者団に,「チームの準備は整っているという自信がある」と述べたようだが,チームの現状を考えると,にわかには信じがたい話である。資金難&株式売却報道,ファクトリー契約未更新,そして独自マシン製造発言・・・。全くかみ合わない話であるが故に,余計に「何か」を感じてしまう。一体SAF1に何が起きているのか?事態が明確になるには,もうしばらく時間が必要になるだろう。

| | コメント (6) | トラックバック (1)

2007年7月28日 (土)

左近よ,チャンスを生かせ!

 日本人が転職を繰り返した場合,大抵「節操がない」と批判的な目で見られることとなる。しかし海外では,自分自身のキャリアのために転職をするのは当然のこととされる。F1の世界に於いてもチーム間を渡り歩くことなど,至極当たり前のことである。ドライバーはもちろんのこと,エンジニアやメカニックなどのスタッフも,短い期間で移籍を繰り返す者が多い。先日もホンダがBMWザウバーからチーフ・デザイナーのヨルグ・ザンダーを,ウィリアムズからエアロダイナミシストのロイ・ビゴワを獲得したが,彼らの行動を非難する者など,F1関係者はもとよりファンの中にもいないだろう。

 しかしこと日本人ドライバーとなると,少々話は変わってくる。ましてやそれが,日本チームからライバルチームへの移籍であれば尚更である。先日,山本左近のスパイカー移籍が発表されたが,この電撃移籍には様々な反応があった。スパイカーのコリン・コレス代表は,残り7戦のシートは未確定であると述べていたが,事前にテストドライブをしていたクリスチャン・クリエンが有力ではないかと目されていた。しかし,実際にそのシートを獲得したのは,噂にも上らなかった左近であった。左近本人も「GP2レース,日曜日の第2戦が終わった後突然オファーが来たので,僕は真剣に受け取ることができませんでした」と,自身も驚く移籍話であったことを認めている。

 左近は今季BCNコンペティションからGP2に参戦しているが,SAF1のセカンド・テストドライバーでもあった。しかし,シーズン中のテストは二人のレギュラードライバーと,途中からSAF1に加わったテストドライバーのジェームス・ロシターが担当しており,左近は一度もF1のテストを行う機会を得られないでいた。そもそも昨年末に,現スパイカーのギド・ヴァン・デル・ガルデがテストドライバーに起用された時点で,左近はSAF1でのポジションを失っていたと言っていいだろう。来季も佐藤琢磨&アンソニー・デビッドソンの残留が濃厚なSAF1にこのままに居続けても,左近のF1復帰は難しい。であるならば,新しい可能性に賭けてみるのは,レーサーであれば当然の結論でもある。

 左近は日本人ドライバーには珍しく,メーカーの枠にとらわれることなくステップアップを繰り返してきたドライバーである。それ故彼の行動に対し,「節操がない」と非難する声があるのも事実である。確かに「義理と人情」は日本人の美しき文化であるが,それによりせっかくのチャンスを棒に振ってしまうケースも後を絶たない。以前「移籍のタイミング」でも語ったように,かつての日本人ドライバーはそのしがらみに捉えられ,チャンスを生かせないままF1を去っていった。しかしそれでは,彼の夢であるF1ドライバーは遠のいていくばかりである。F1学校への入り方は人それぞれ。大切なのは「どうやってチャンスを得たのではなく,得たチャンスをどう生かしていくか」なのだから。

| | コメント (7) | トラックバック (3)

2007年6月23日 (土)

真夏はホンダの正念場

 「病は気から」という言葉が示すように,人間の心理状態は,時として体にも変調を来す。気力が充実していれば,多少困難な状態でも自らを奮い立たせ乗り切ることができるだろうが,それが低下しているときは,同じ事をするにも膨大なエネルギーが必要になる。今シーズン,チームの大黒柱として獅子奮迅の活躍を見せるSAF1の佐藤琢磨は,気力体力共に充実していると言っていいだろう。その一方で,走らないマシンに嫌気がさし,モチベーションの低下が見られるのが,ホンダのプリンス,ジェンソン・バトンである。先週行われたアメリカGPの走りは,トラブルを抱えていたということを差し引いても,明らかに集中力を欠いたものであった。

 そのひとつが,2周目のバトンの行動である。琢磨の言葉を借りれば,「彼はおそらく最初気づかずに行動を始めたんだけど,僕に並んだ頃にイエローに気づき,そしてポジションを元に戻した」というものである。もしそれが本当であれば,ペナルティを受けるべきなのは琢磨ではなくバトンの方である。しかし,実際に黄旗追い越しのペナルティを課せられたのは琢磨であった。更に琢磨は,ペナルティストップ前にリタイアしたことにより,フランスGPでの10番グリッド降格が決定している。一度出てしまったFIAの決定が覆ることはまずない。後方からのスタートを余儀なくされるが,ここは琢磨にアデレードヘアピンでのオーバーテイクショーを期待したい。

 さて,そのSAF1は,スペイン・へレスでホンダとの合同テストを実施した。主としてヨーロッパラウンドから投入するエアロダイナミクスやサスペンションのテスト,更にフランスGPを見据えたセットアップに精を出したようである。一方のホンダは,シーズン中としては異例の,報道陣完全シャットアウトの極秘テストとなった。チームの地元イギリスを離れわざわざスペインでテストを行ったのは,見られたくない秘密があるからに他ならない。これは,ホンダの中本修平/シニア・テクニカルディレクターも認めていることであり,今回のテストをいかにチームが重要視しているかが伺える。

 ホンダがスペインで極秘テストをしたのは,開幕から不振にあえいでいるRA107を大幅に改良したRA107"B"であると言われている。既にモナコGPでマシンに大きな変更を施したことに加え,北米2連戦にはルーフの形状が以前のものとは異なるモノコックを投入するなど,その開発ペースはトップクラスである。残念ながらトラブルやアクシデントにより,結果にこそ結びついてはいないが,開幕直後の低迷を抜け出しつつあることは明らかである。それだけにRA107Bの投入が吉と出ればいいが,逆にこれでもパフォーマンスの改善が見られない場合,チーム体制に再びメスが入れられる可能性もある。ホンダにとってここ数戦が,真夏の正念場となりそうだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年6月11日 (月)

「記録」よりも「記憶」

 時刻は草木も眠る丑三つ時。普段であれば完全に夢の中にいる時間である。しかも今日は地獄の月曜日。これから始まる1週間を考えると,少しでも長く夢の中にいたい。しかし,そんなことすら忘れてしまうような興奮が,F1レースにはある。第7戦カナダGPは,PPに自身初のなるマクラーレンのハミルトン。アロンソも2番手につけ,マクラーレンがガッチリとフロントローを独占した。その一方でフェラーリは,BMWザウバーのハイドフェルドも先行され,4-5番手。予選トップ3にフェラーリ勢が入れなかったのは今季初となる。

 日本時間午前2時,現地時間午後1時。いよいよ決勝スタート!ホンダのバトンがグリッドを離れられなかった以外は,各マシンきれいなスタート。心配されていた1コーナーでの接触はなかったが,2番手のアロンソは1コーナーでオーバーラン。2位の座をBMWザウバーのハイドフェルドに明け渡してしまう。予選11番手からスタートしたSAF1の佐藤琢磨は,トヨタのトゥルーリをかわし1つポジションを上げる。更に前をいくレッドブルのウェバーがスピンを喫したことで,9番手に浮上。路面のグリップは相当悪いようで,至る所でコースをはみ出すシーンが映し出されている。

 1回目のタイヤ交換が始まりつつあった23周目。スパイカーのスーティルがウォールにヒット!SCが出動し隊列を整え始める。今季からSC導入直後はピットがクローズされ給油ができなくなる。しかし,アロンソは微妙なタイミングで給油。これはどうやらペナルティの対象になる模様。4周後レース再開,と思ったらヘアピン前でBMWザウバーのクビサが大クラッシュ!!ウォールに激しくヒットしマシンは宙を舞い,マシンはモノコックを残し完全に破壊される。クビサはクラッシュにより気を失ったのか,マシンから自力で出ることができない。再びSCが入る。

 長いSCの後,43周目にレース再開。ヘアピンでフェラーリのライコネンがミス。直後いた琢磨がすかさずライコネンをパス!これは気持ちがいい。アロンソはSC中の給油によりペナルティを受け,14番手にダウン。SAF1はデビッドソンの緊急ピットインでクルーが大あわてで出てくる。なんだかバタバタしたレースになってきた。琢磨はライコネン&アロンソを従え6番手を激走!本当に気持ちいい!!と思ったらまたSC。琢磨のピットインが微妙なタイミングだったため,チームは給油するかしないかでバタバタ。結局ペナルティを考え給油はしなかったが,この判断が今後どう影響するか。

 その直後,ルノーのフィジケラと,フェラーリのマッサに黒旗提示!どうやらピット出口の赤信号を無視してしまったようで,失格判定。レースが再開されたと思ったら,最終コーナーで5番手まで浮上していたトロ・ロッソのリウッティがクラッシュ!何とこのレース4度目のSCが入る。あまりに荒れすぎて,もうどうなってるんだかよくわからなくなってきた。琢磨はレース再開で10番手,その後8番手まで浮上しトヨタのラルフを追いかけ回す。残り4周,最終コーナーで鮮やかにパス!そして何と,ディフェンディングチャンピオンのアロンソをもターゲットに!残り2周のヘアピンでピタリと背後につけると,ストレートエンドでプレーキング勝負!!よーし!6番手に浮上だ!!すごい!!!

 琢磨はそのまま6位でチェッカーを受け,今季2度目の入賞。3ポイントを獲得した。表彰台の可能性もあったレースでの6位には悔しさも残るだろうが,2年連続チャンピオンを蹴散らしての6位は,それを打ち消すほどの素晴らしい走りであった。これぞ「記録」よりも,「記憶」に残るリザルトだろう。おめでとう!!

| | コメント (13) | トラックバック (6)

2007年5月26日 (土)

「本物の」素晴らしい結果

 「その日を生きるだけで精一杯だった・・・」記憶が定かではないが,映画「敦煌」の中で,西田敏行演ずる朱王礼が語った台詞であったように思う。このところも私も,正にこのセリフのように,その日暮らしの毎日である。やりたいことは山のようにあっても,時間と体力が許してくれない。だた目の前にある課題を処理しているだけで,むなしく時間は過ぎていく。SAF1の佐藤琢磨による,「日本人ドライバーが日本チーム・日本製エンジン・日本製タイヤで得た初めてのF1ポイント」という歴史的な偉業を成し遂げられたスペインGPから早2週間。ようやく週末がきたと思ったら,もうモナコGPが始まっていた。この調子では,あっという間にシーズンが終わってしまいそうである。

 さて,そんな中でも欠かさず愛読しているのが,毎週木曜発売の「AUTOSPORT」である。F1はもちろん,国内外様々なカテゴリーの記事が載っている同誌なだけに,愛読されているモータースポーツファンの方も多いと思う。特に私のように浅く広くモータースポーツを見ている者にとっては,大変都合のよい雑誌なのである。中でもお気に入りなのが,ピーター・ウインザー氏による「F1インサイド・レビュー」である。ウインザー氏は30年以上にわたりF1と深く関わっているベテランジャーナリストであり,セッション終了後にトップ3ドライバーへのインタビューワーを務めているのも同氏である。

 そんなウインザー氏のコラムは,決して母国チームやドライバーだけを過度に評価したり,通り一辺倒な状況分析に終わることはない。長年に渡ってF1界を見続けてきた独自の視点で,鋭く辛口にドライバーやチームの現状を語っている。それでいて文章表現が非常に穏やかであり(五十嵐哲氏による翻訳も素晴らしい),落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していることも,このコラムが人気を博している理由であろう。スペインGPを振り返った今週のコラムでウインザー氏は,SAF1とは比べものにならないリソースを持つレッドブルが得た5位よりも,琢磨の8位のほうが「本物の」素晴らしい結果だと記している。

 更にウインザー氏は,琢磨のポイント獲得を次のように語っている。

『タクの偉業について大切なのは,彼らがルノーを苦しめたレースで初ポイントを獲得した,という表面的な事実だけではありません。これは小さなチームがビッグチーム相手に成し遂げた勝利であり,お決まりの仕事をこなすだけの人間に対する情熱の勝利であり,物事を複雑に考える人間に対するシンプルな仕事のやり方の勝利でもあるのです』

 シャシー問題が決着されない中,SAF1のポイント獲得については反発する声もあろるだろうが,彼らが勝ち取った結果は紛れもない事実である。今後は一層彼らに対する風当たりも厳しくなろうが,それをモノともせず進化し続けていってほしいと願っている。ところでモナコGP予選はどうなった?

| | コメント (6) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧